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第十八話 チーム初報酬と、中島病院の礼
別荘誘導は、渡辺の作戦だった。
加場根は強引なヤクザなやり口が目立つが、情報にはうるさく、リスクを犯して危険な橋は渡らない。
そういう人物であることを知っていた渡辺は、“偽の情報”で誘い出し、倒す作戦を考えた。
また平間の娘、陽子の“正確な”隠し撮りの件から、ホテル事業に関わる誰かが手を貸している可能性があると推測し、わざと別荘での避難の情報が漏れるようにしていた。
木崎がホテル内のセキュリティーシステムにアクセスし、陽子の父親の別荘への避難計画の情報を抜き出そうとしていた人物を見つけ出した。
何とそれは、ホテル内で警備を担当するスタッフだった。木崎がセキュリティーにアクセス監視していなければ、見つかることはなかったであろう。捕まった本人も、(そんな馬鹿な!)という、まさに驚きの顔をしていた。
だがこの警備スタッフは、ただ金をもらっていただけの“使い捨て”だった。その金を払っていたのが、役員の一人、加鳥 慎也だということを、その警備スタッフから吐かせた木崎。
警備スタッフに、口座のデータをいじって預貯金の額に0を一つ足してやると持ち掛けると口を割ったのだが、「そんなわけねえだろ、クズ野郎が」と逆に0を一つ減らした木崎。
加鳥は、加場根と組んで、カジノ経営でノリに乗っているゴールドスターズホテルを乗っ取ろと企んでいたのだ。
あとは、平間から聞いた話の通りだった。
別荘にノコノコと現れた加場根たちは、完膚なきまでに叩きのめされた。
陽子の制服を着た夕紀の魔法に、隠れて待ち構えていた六堂と渡辺が裏を描くように手下共を次々倒した。
途中、手下の一人が手榴弾によるまさかの攻撃をしかけたことで、三人は外のプールに飛び込むハメにはなったが…。
その爆発のせいで、別荘の一部が吹き飛んでしまったが、愛娘を危険人物の手から守ったこと、ホテル経営陣の膿を見つけ出したことに感謝され、特にそのことで責められることはなかった。
三日後、“Secret story”に集ったメンバー四人は、テーブルに置いた木崎のノートPCを囲んでいた。
平間からの報酬が、新しく作ったスイス銀行のそれぞれの口座に振り込まれていたのを、モニターで見ていたのだ。
「…あいよ、入金確認完了!」
木崎が上機嫌でそう言うと、皆は互いを見合い、オーナーが作ってくれた軽食を摘みながら語り合った。
「さて、どうかな?出だしから結構いいチームだと思ったが、皆はどう思った?」
渡辺がそう切り出すと、六堂は口を開かず目を瞑り、親指を立ててグッドサインをして見せた。
「今回は本気で腕を振るうほどではなかったが、報酬には満足してるぜ」
瓶ビールを片手に、木崎は笑顔でそう答えた。
夕紀は、平間の娘、陽子に制服を返す際に直に感謝を述べられていた。
そのことを思い出すと、夕紀は少し微笑ましい気持ちになった。
「…そうね、まだ決心したわけじゃないけど、もう少しお試し期間ってことで、このチームにいてあげなくもないわ」
そう言う夕紀だが、この日から四年間、このメンバーで裏社会での活動が続いたのだった。
そんなゴールドスターズの一件から二週間ほどが経った晩、夕紀は六堂を食事に誘っていた。
と言っても、どこか店ではなく、上野の自宅に招いての夕飯だ。
彼女の祖父は今夜は近隣商店街の呑み会で留守にしていて、その機会に誘ったのだった。
中島病院で助けてもらって、まだ礼をしていなかったことを気にしての夕食だった。
少し古びた、どこか懐かしさを感じる雰囲気の部屋を六堂は見渡した。
仏壇には、夕紀の両親と思しき写真が置いてあるのが目に入る。
学校の制服にエプロンを着けた夕紀が湯気の立つ器を片手に、台所から入ってくると、六堂はそんな彼女をマジマジと見つめた。
「な、何よ?」
「あ、いや…別に」
意味深に微笑む六堂が気になる夕紀。
「外食がよかった?」
そう尋ねる夕紀が持つ器の中の料理は、“肉じゃが”だった。
「いや、手料理、ちょっと久しぶりで嬉しいよ」
それは夕紀には“お世辞でも”嬉しい言葉だった。
礼については色々考えたが、何が一番喜んでくれるか、いい案が思いつかず、気持ちという意味で、得意の手料理を振る舞おうということにしたからだ。
肉じゃがの他に出てきたのは、“豆腐とワカメと胡瓜を使った和風サラダ”
、“アジの干物”、そして“なめことオクラの味噌汁”。そして今日は白米だけのご飯だ。材料は全て、近隣商店街の店から買ったものだ。
普段どこか寂しげな目をしている六堂だが、食卓に並ぶそれらを見る表情はとても嬉しそうだった。
興味のない者にしてみれば、気づかない変化だろうが、夕紀にはそれが解り、そして嬉しかった。
準備が整い、食事が始まると、六堂の最初の一口目を真剣に見つめる夕紀。
それに気づいた六堂は、口元の手前で運んでいた肇の手を止めた。
「食わないの?」
「え?た…食べるわよ」
夕紀は、恥ずかしそうに慌てて目を逸らすと、自分の箸の先にご飯を“ちょこん”と乗せて、口に運んだ。
六堂は、美味いなどという、夕紀が期待した口に入れての第一声はなかったが、パクパクと美味しそうに只管食べていた。
「…どう?口に合う?」
夕紀が尋ねると、六堂は頷いた。
「美味いよ。こんな暖かい食事、マジで久しぶり」
まるで子供のように夢中で食べる六堂は、中島病院の時とは別人に見えた。
「涼子さんはメシ作ってくれないしさ、何か腹に染みるなあ…」
“涼子”、見ず知らずの自分を助けてくれた女性。自分だけでなく、事情を知るや中島病院の件で、福田牧師を現場に招いて浄化させることもしてくれた刑事で、六堂の裏社会における師に当たると聞いたことを、夕紀は思い出す。
そして倉庫で養生していた際に会ったが、その容姿が夕紀から見ても美人であることがとても印象的だった。
「六堂君はさ…」
「ん?」
「その、涼子さんと、一緒にあの倉庫で暮らしてるわけ?」
六堂の言った“涼子さんはメシ作ってくれないし”というのが気になった夕紀は、思わず尋ねた。
「いや、まさか」
涼子の所有している倉庫は、彼女の“もう一つの顔”のための物で、自宅は別にあるとのことだった。
六堂はあそこで涼子からの指導を受け、住処として住まわせてもらっていて、度々二人で過ごすことはあるらしかったが、その時の食事は、コンビニや弁当屋さんから買った物ばかりだと、六堂は教えてくれた。
夕紀はそれを聞いて、少しほっとした。
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