第一話 メンバーとの出会い

1/1
前へ
/59ページ
次へ

第一話 メンバーとの出会い

 夕紀が、木崎の錆びたビートルに乗って連れて来られたのは、自由が丘にある薄暗い路地にある小さなカフェだった。  (こんなところに喫茶店が?)と思うような場所で、まったく目立たない。  小さい看板に、“ Secret story”と記されている。  木崎が店内に入ると、扉に付けているベルが鳴った。  店内は古臭いが小綺麗で、珈琲(コーヒー)のいい香りが漂っていた。 「へえ、素敵な喫茶店ね」  想像していたのと違っていたのか、ぽつりと夕紀は言った。  アンティークなジュークボックスから流れるレコードの音が、CDばかり聴いてる夕紀には、不思議と暖かい音に聴こえた。    ジュークボックスの近くのテーブル席にサングラスをかけた男が一人。 「いらっしゃいませ」  カウンターに立つ女性。40代半ばくらいだろうか。少しくたびれた感じが漂ってるが、美人だ。儚げという雰囲気。 「やあ、オーナー。俺コーヒー。こっちは、紅茶と、本日のケーキを」  後ろに立ってた夕紀を親指で差し、注文をすると、木崎はジュークボックスの近くにいたサングラスをかけた男の側に行き、声をかけた。  夕紀はその様子を横目に、鞄を足下に置き、カウンター席に座った。 「こんにちは、可愛いお客様ね」  オーナーは優しく微笑みながら言った。 「オーナー、さん…なんですか?」 「ええ、もう二十年よ」 「へえ…」 「あなた、魔導士?」 「…え!そういうの、わかるんですか?」  オーナーは顎に人差し指を当てて、上目で少し間を空けた。 「そうねえ、何となくは」  場所からしてもそうだが、オーナーの見る目からも、どうやらここは普通の喫茶店ではないのだと理解する夕紀。 「わっ!にゃんこ!」  カウンター席の足元に黒い猫が現れ、思わず夕紀は両足を上にあげた。 「あら、ごめんなさい、うちの“看板娘”のシャーロットよ」  シャーロットは、下ろした夕紀の足元でスリスリと顔を擦り付けた。 「あらあら、あなたのこと気に入ったみたい」  ジュークボックスの音楽が終わり、レコードが収納される音が聴こえると、木崎が手招きをした。 「おーい、いいかぁ」  おーい…そういえば、ナンパされた時に木崎には名乗られたけど、自分は名乗ってなかったと思った夕紀。  カウンター席を立ち鞄持って、木崎ともう一人の男のいるテーブル席に移動した。 「これはまた随分と、若いというか、可愛いというか」  木崎の隣にいたサングラスの男が、夕紀を見て言った。 「そんなジロジロ見なくても、女子高生が珍しい?」  夕紀は苦笑しながら、サングラスの男に言った。  サングラスの男は椅子に座っているが、ガタイはよく、夕紀よりもずっと大柄だと思うが、物怖じしない口のきき方に、木崎は笑った。 「やっぱり根性座ってるよなぁお前」  サングラスの男は首を横に振った。 「いやいや…いきなり失礼した。女子高生が珍しいのではなく、こんなに若い魔導士さんが珍しくてね」  (ああ、そういうことね)と夕紀は頷いた。  用件は何なのか質問をしようと思った時、店の扉が開き、店内にベルがなった。  夕紀は音のした扉の方を振り返った。  目に入ったのは若い男だった。自分と同じくらいだろうかと思う若さだ。  その男は髪が少し青く染まっている。店内は薄暗く、下地は黒髪なのでわかりにくいが、窓から差し込む僅かな光が当たると、染められてるのがわかった。  そして何より、“普通ではない”と伝わるのは色の着いた髪より、左手に持っている刀だ。 「いらっしゃい」 「…ブレンド」 「ケーキは?」 「今日何?」 「ベリーのタルト」 「それじゃ、それも」 「かしこまりました」  男は注文をすると、三人のいるテーブル席前まで来た。 「ごめん、遅れた」  近くで見ると、何て目をしているのだろうか、夕紀は思わず見惚れてしまった。  表情は静かだが、その目には深い悲しみと怒り、負の感情が強く感じられた。 「ここいい?」  隣の椅子を指で差され男にそう言われると、夕紀はこくこくと数回頷いた。  男は、刀を後ろのテーブルに立てかけ、夕紀の隣の椅子を引いて座った。  間近で見ると、着ているデニムのジャケットは大分くたびれている感じだった。 「えっと…」  夕紀は刀の話を切り出そうとすると、サングラスの男が「この二人も今来たところだよ」と木崎と自分のことを言った。 「ああ、そうか。じゃあ、自己紹介から…でいいのかな」  刀の男は、親指を自分に差した。 「俺は六堂(りくどう)多分この中では、裏社会の人間として一番の後輩だと思う。よろしく」  聞けば歳は十八。高校を卒業して間もないという。夕紀より、一つ上だ。  しかし、急に自己紹介とは、何かと思う夕紀。  少し状況が飲めないまま「この六堂に、救われたんだよ俺」と、サングラスの男は微笑みながらそう言った。 「そして俺は渡辺(わたなべ)だ。銃器を使った戦闘を専門にしてるフリーの兵士だ」  渡辺と名乗ったサングラスの男は、本当に銃が似合いそうだと夕紀は思った。  そしてナンパ男、木崎。背もたれに寄りかかり、ポケットに両手を入れたまま口が動く。 「…俺は木崎。ハッカーだ。ドンパチに免疫なくはないが、基本は表にはでない。渡辺とは、仕事で知人といった関係だ」 「え…ハッカー?」  こちらは意外だと感じた夕紀は、思わず口に出た。 「何だ、おかしいか?」 「おかしくないけど、意外」  渡辺は、夕紀の反応に鼻で笑った。 「何だかわからないけど、これ私も自己紹介する感じ?」  夕紀がそう言うと、渡辺は首を振った。 「まぁ、せっかくだし、いいだろ?」 「…といってもねぇ、魔導士って知ってるみたいだし…。名前は夕紀、高校生で、今三年生よ」  渡辺は、パンパンと手を叩いた。 「はい、自己紹介も済んだところで本題だ。ここに一同会したは、この男、六堂 が望んでのこと…」  本題は、『裏社会で活動するチームが欲しい』と六堂が望んだことだった。  渡辺は最近、ある人物のボディーガードに雇われていた。だがその人物、武器取引の際に、相手に裏切られ、金だけ奪われ殺されそうになった。  当然、その人物の部下共々、渡辺も応戦したが、そもそも取引場所に罠がしかけられていて、完全にハメられた状況だった。  そんな危機的状況下におい、突如として現れた六堂に助けられたのだという。    金を持ち去ろうとした裏切った取引相手と、その部下たちを一瞬で斬り刻んだ六堂。その華麗な動きに、渡辺は見惚れたという。 「まともな取引ができない輩は、また繰り返すからな…」  そう言い、六堂はその時は静かに立ち去った。  そんな中、罠にハメられパニックになっていた雇い主の部下たちだったが、渡辺だけは冷静に対応して、雇い主の命を守るべく応戦していた様子を、六堂は見ていたらしい。  雇い主とボディーガード契約の終了後、渡辺の前に六堂が再び現れた。 「よう、先日は助かった…雇い主からも報酬はもらえたし、礼をしたい」  そう言う渡辺に、六堂は首を振った。 「礼はいい。それより俺はあんたと組みたい…」  そこで出た話は、六堂は裏社会に身を置いてまだ、期間が短いことと、活動を経て腕をあげること、金を稼ぐこと、ある人物を探すことで、信頼できるチームを組みたいということだった。  集めるメンバーの条件は若く、まだそこまで名の知られていない、実力者。 「ベテランは師匠にはいいが、仲間にするには癖が強かったり、自分の経験則が正しいと強く思い込む奴もいるので…チーム内のバランスを保ちたいので」  そこで集ったのが今、テーブルで顔を合わせている四人であった。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加