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 しばし、会話が途切れる。  ピーナッツがなにに含まれていたのか。あるいは、誰がこの部屋に持ち込み、どうやって被害者に怪しまれないよう食べさせたのか。現時点ではそのすべてが謎に包まれている。純粋な事故では片づけられそうにない事案だった。  班長は腕組みをしてうなり、所轄署の若手刑事に尋ねた。 「遺書は見つかってないんだよな?」 「えぇ、今のところ」 「晩餐会終了後、他の参加者はどうしてた?」 「義弟の篠岡和之・惠美夫妻、長女の福谷泉と夫の福谷浩輔、それから丸篠の専務の大沢道明は、ひばりが寝室へと戻ってすぐに邸をあとにしています。長男の篠岡青羽は子どもたちと三人で風呂に入り、妻の歌織は家政婦の保田紀代子、次女の篠岡翠とともに会食の後片づけをしていたそうです。次男の篠岡朝日、三女の篠岡桜はそれぞれ二階の自室に戻り、朝日はパソコンでオンラインゲームを、桜は受験勉強をしていたとのことでした」 「末の子二人は、それぞれの部屋で一人きりだったのか」  班長がひとりごとのようにつぶやく。 「チャンスはあったが、いかにも自分を疑ってくれっていう状況ではある、か」 「それに」星乃が言う。「これが殺しだった場合、会が終わってすぐに帰った五人にだって、たとえばこっそりここへ戻ってくるとかすれば、やれないことはなかったと思います」 「お二方のおっしゃるとおりです」  所轄の若手刑事がすっかりあきらめたような顔で言った。 「チャンスは誰にでもあった。しかし、特定の一人を絞り込む材料が見つかっていない。現状、そういうことになります」  鑑識作業を一通り終えた係員たちが、道具の片づけに入っている。(ぬし)を失ったこの部屋は、大勢の刑事たちが出入りする物々しい雰囲気が消え、もとの静けさを取り戻すことを歓迎しているだろうか。 「動機の線はどうなってる?」  班長が所轄署の若手刑事に尋ねる。 「手段で絞り込めないなら、被害者に殺されるような理由を見つけてそこから糸口を探るしかねぇだろ」 「それが……」  所轄署の若手刑事から聞かされた内容に、星乃は軽い眩暈を覚えた。  彼らと自分が同じ日本という国で暮らしているとは、とても思えそうになかった。
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