必ず散る命

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「君は今どこにいる?」 「僕は今黄泉にいる」  電話先の僕はあっさりと白状する。  今中高生のあいだで未来電話というアプリが流行っている。  アプリを通して電話をすると、電話先に出るのは未来の自分という設定のアプリ。これはあくまで遊び、そう思っていた。  というかそうであって欲しい。  なにせ未来の僕は黄泉にいると言っているのだ。  黄泉……なにも捻らずに考えれば、死後の世界。  そこに未来の自分がいるというのだから、あくまで設定であって欲しいものだ。  僕は恐る恐るもう一度電話をかける。 「もしもし。君は今どこにいる?」 「僕は今黄泉にいる」  答えは変わらない。しかし今回は、このまま話を進めてみることにした。 「君は死んでいるのか?」 「……ああ。死んでしまった。ここは黄泉の世界」  答えが帰ってきた。  このアプリは最初の質問にしか答えないはずなのに……。答えが返ってくるということは、これはシステムではないのか?  そう考えた時、背筋が寒くなる。今の電話先は、一体何者なのだろうか? 「何を言っているんだ? 僕は未来の君だよ?」 「僕は何も言っていないぞ?」  疑問に思っただけで言ってはいないはずなのに……。 「失敬。当時そう考えていたなと思い出しただけさ」  自称未来の僕は、それっぽいことを口にする。そんなことを言われたら、うっかり信じてしまう。 「じゃあさ、僕が黄泉にいかないためにはどうすれば良いか教えてくれよ。君は僕の死因を知っているのだろう?」  僕は藁にも縋る思いで嘆願する。  僕の言葉を聞いた未来の自分は、軽くため息をついた後、ゆっくりとした口調で話し始めた。これから僕がどんな人生を歩み、どんな酷い目に遭い、どんな最後を向かえるのか……。  それはそれは酷い人生……。しかしどれも否定できなかった。どれもが容易に想像できた。できてしまった。 「ここまでいろいろ教えてくれたわけだけど、一番大事なことを教えてもらってないよ」  僕は未来の自分に不満をぶつける。  説明不足だと非難する。  これだけでは、ただただ不安な未来を示されただけじゃないか! 何も救われない! 「君が生き残る方法かい? そんなものあるはずないじゃないか。分かっているだろう?」 「どういう意味だ?」  聞き返しはしたが、思い当たる節は二つある。理由は二つある。 「だって、僕が教えたことで君が救われるなら、この通話自体がなかったことになるんだぜ?」  未来の僕は、易々とそう言ってのける。簡単に僕の希望を摘み取っていく。  確かに彼の言う通りだ。この電話がなければ、僕が助かることはない。でも僕が死ななければ、この会話の展開にならないだろう……。これが理由の一つ。そしてもう一つの理由は、今の僕の状況にあった。 「じゃあもう……諦めるよ。どうせ僕には未来なんてないのだから」  そう言って電話を切った僕は、唯一動く腕を動かし、近くのテーブルに携帯を置く。  ベットの上で身じろいだ僕は、諦めのため息とともに部屋を見渡す。  部屋全体に機械が敷き詰められ、それらから伸びた無数の管が、寝たきりの僕の全身に突き刺さっている。 「明るい未来なんて、あるはずないんだよな……」  うっすらと涙を浮かべながら一人、無菌室の中で呟いた。
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