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キスをしたら魔法は解けてしまうのだろうか、それとも魔法に取り込まれてしまうのだろうか。
『あなたが、そうね、もしも有名なバスケットボール選手になったらね。イーサン。』
もしもそうなったとしても、その頃にはきっと、この男の子はわたしのことなんて忘れてしまう。
『キスはそのときね。』
「もう一度会えるとき、どうやったら君だって、分かるの?」
泣きそうな声。
抱きしめてキスしてあげたい。だってまだ彼は子どもなんだもの。
わたしに地球の自転と公転を教えてくれた、子どもなんだもの。
『わたし腰骨のあたりにほくろがあるのよ。右側よ。』
「サラ、それを見せて。」
『今はまだよ。そのときね、見せるわ。」
荒んだ街のビルディングの上に赤い太陽が顔を出した。
わたしはラップトップのキーボードの上に指を乗せる。
わたしには分かっていた。
もしも、もう一度、繋がることが出来たとしても、そのときには何かが変わってしまう。
この親密さは戻ってこない。
こんなことは滅多に起こらないんだから。
微小な隕石は毎日降り注いでいるのだという。大気圏で燃え尽きる。
普段なら気が付かないような、わずかなきらめきだったのだ。
わたしは見ることが出来た。
『さよなら。』
朝と夜に別れていく空間と時間。
空が塗り替えられてゆく。
パープルレッド、インディゴブルー。
感じられないはずの自転を感じる。風を切る。
サラ、とおまじないみたいな声が呼びかける。
この地球のどこかで。
「さよならなの?」
『さよならよ。』
《 完 》
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