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第一幕 第1章 答えは誰の中にある?
「秋葉さん」
教室で、あたしを呼ぶ声。答案用紙を持った数学の横川先生が、死刑判決を下す裁判官のように見えた。
分かってる。
分かってるんだって。
その紙に、ろくな数字、書かれてないんでしょ。
全力で、逃げ出したかった。
先週受けた2学期の中間考査の結果。もう返ってくるなんてひどい。もうちょっと浸らせてくれ。「テスト終わったー!」って、開放感ってもんがあるでしょ。それが、悪い点数だったら、開放感薄れるじゃん。悪い点数って分かってるから、なおさら。
「はい」
先生は何も言わずにあたしに答案用紙を渡した。いやいや、何か言ってよ。あるでしょ、「次は頑張れ」とか「よくやった」とか。後者ではないことぐらい知ってるけれど。
くうぅぅっ。歯を食いしばりながら席で答案用紙にでかでかと書かれた点数を見た。
はあああああ!?
って、危ない。思わず叫んじゃうとこだったわ。
「秋葉、大丈夫か?」
隣の席の種田一樹が一人動揺するあたしを見て訊いてきた。しっかりと濃い目元。バスケ部らしい爽やかな短髪。本人には言わないが、クラスの女子の間では人気がある。ただ、あたしからすればいつも余計な一言が多い。今だって、ぱっと見心配しているようにも聞こえるが、完全にからかわれている。「大丈夫か?」じゃなくて「頭、大丈夫か?」って言いたいんでしょう。顔がにやけてんのよ、あんた。
「お願いだから聞かないで」
「あー、悪かったんだな」
てか、絶対楽しんでるよね?
あたしの反応を娯楽にすんじゃない!
種田の言葉はムカつくけど、それもこれも自分の頭が悪いことが原因だって知ってる。1学期もダメだった。クラスの順位は40人中33番。学年順位だって、300人のうち下から数えた方が随分と早い。
中学の頃は、こんなんじゃなかったのにな。
クラスで上から5番以内には入っていた。テストの点数が悪い子がいたら、それこそ何でそんなに悪いのか、聞きたいくらいだと思っていた。正直見下していたところはある。
でも、高校に入ってからはあたしが見下される側になった。まあ、種田みたいにせいぜいからかってくるぐらいだけれど。
あたしが通うここ、県立朋藤高校は言わずと知れた進学校だ。あたしの住んでる学区の子で、そこそこ勉強ができる子たちが皆憧れる学校。あたしも例に漏れず、「頑張ったら入れるかも」という淡い期待のもと、朋藤高校を受験した。あたしと同じように、中学のクラスメイト数人が朋藤高校を受験していた。
そしてあたしは幸運にも朋藤高校に合格し、憧れの高校で華の女子高生になったのだ。
なったんだけど。
「う〜ほんと無理っ。高校の勉強分かんなすぎ」
お手上げだった。最初につまずいたのは、1年生の1学期。ほんと、相当序盤だ。
しかしまだ、1年生1学期の中間テストまでは良かった。それまでは中学校の復習みたいなところも多く、有り合わせの知識だけでも、なんとかテストに太刀打ちできたからだ。
なのに。
1学期の期末テストで撃沈。
国語、75点。
数学、57点。
英語、63点。
そんなに悪くないじゃんって思う人もいれば、「やばくね?」って侮蔑してくる人もいるだろうが、後者が正しい。
だって朋藤高校の皆、とても賢い人ばかりなんだもん。皆頭良くて、点数は平均して75点以上の人が多い。
それにまだ1年生の1学期だからね。
これからどんどん難しくなるわけで、つまりこのままじゃ成績下がる一方じゃん。
……って、気づいてはいた。
気づいてたのに、修正できなかったのは、あたしが本当にバカだからだ。
ちょっと気を抜いていただけ。
「初めてのテスト疲れたっ!」って、大きく伸びをして、伸びをしすぎて、気合を入れ直すタイミングを失ってしまったわけ。
「はあーっ」
本当にもう、全部自分が悪い。
そう思うからこそ止まらないため息に、再び隣の席の種田がクククっと面白がって笑う。
いい加減、笑うなっ!
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