第一幕 第1章 答えは誰の中にある?

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その店の扉を開けるのには、抵抗があった。 何しろあたしは人生のうちの1%も「本屋に行く」という時間がない。 それだけならまだしも、自宅から朋藤高校までの道のりにある本屋は、普通のコンビニの半分くらいの広さしかなく、お客さんが中に入ってゆく様子をほとんど見たことがなかった。 「桜庭書房(さくらばしょぼう)」。 剥げかかった看板。 店の扉の前で、三毛猫が丸くなって眠っている。 見るからに人の出入りがありそうなところで無防備に寝るなんて、警戒心のない猫だな。 でもまあ、この人の少なさだから、仕方ないのか。 桜庭書房の扉は、木製で店内が見えないようになっていた。 昔ながらの書店という感じで、店主はいかにも“おじいちゃん”みたいな人じゃないかと勝手に予想。 あたしはしばらく、その味のある扉の前で逡巡していた。 自他共に認める小心者のあたしは、お腹にぐっと力を入れないと、決心ができない。 「ふぅ」 よし、入りますか。 カララン。 まるで喫茶店にでも入るかのような涼しげな音がしたけれど、中に入ると昔嗅いだことのあるような、紙の匂いがブワッと漂ってきた。 「おお」 外見から想像される通りのレトロな内観。 木製の本棚が、いかにも「年季もの」って感じ。 その、年季の入った本棚に、びっしりと並べられた本。 たくさんある。本屋だから当たり前だけれど。 やはり、中に他のお客さんはいなかった。いつもこんな感じなんだろうか。 「参考書コーナーはっと」 店内はそこまで広くないため、目的の棚はすぐに見つかった。 しかし、参考書の棚の前に立つと、早速困るあたし。 高校に入ってから勉強という勉強を真面目にしてこなかった自分が恨めしい。 棚にざっと並べられた参考書の種類が多すぎて、ぱっと見ただけではどの参考書がいいのか、全く分からないのだ。 試しにいくつか手に取って、開いてみた。 とりあえず苦手な数学から。 「う〜ん」 どの参考書も、表紙を開けば基礎問題、応用問題、と並んでいる。 はっきり言って、違いが分からない。 白黒の参考書よりはカラーの方がいい? あ、でもこっちの白黒のは問題数多くて解きごたえがありそう……。でも、待てよ。あんまり問題多くても、途中で挫折しない? いつもの自分なら絶対に最後まで使えない。 本当に、どれが一番いいんだろうか。 精一杯悩んで、もういいや、これっ! と手にした参考書は、それほど問題数が多くない、カラー印刷のものだった。 教科書のような参考書だから、バカなあたしにも使える——と、思いたい。 ひとまず数学の参考書を選び、さらに国語、英語も選んだ。続くか分かんないし、今日は主要三科目だけにしよう。参考書を三冊も抱えていると、なんだか賢い人の気分になった。 って、ダメじゃん、買うだけで満足しちゃ。参考書以外に特に用のないあたしは、さっそくレジに本を持って行った。
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