第一幕 第3章 私だけの居場所

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最初は、なんとなく息苦しい、という程度だった。合唱コンクールの練習をしている最中、周囲の人間に、罠にはめられていると気づいた。私をクラスの敵に仕立て上げることで、皆の団結力を高めようという魂胆。しかも、それが合唱コンクールで優勝するため、という理由ならまだ納得できなくもないが、決してそういうわけではなかった。 一人のクラスメイトを敵にすることで、弱い者いじめをする団結力を高めようという、とてもくだらない目的。 その、くだらない理由に、振り回されている自分。 これはもう、「息苦しい」を超えて、「生き苦しい」だ。 これまで何度、重たい気分で帰り道を歩いたか分からない。けれど、今日が一番最悪かもしれない。 「かーな」 頭上から、私を呼ぶ声がする。きっといつもと同じ、カラスの声。以前は、動物好きの私でも苦手だと思っていたカラス。彼らはしゃべってみると、実際お調子者だったり、人間の私をからかってきたりするけれど、決して悪いやつじゃない。 「元気ないね」 「どうしたの?」 「話聞くよ」 ハト、スズメ、ツバメ。 皆、私のことを心配してくれている。 学校社会ではいじめられている私に、優しい言葉をかけてくれる。彼らの言葉が聞こえるようになって、動物たちにもちゃんと心があることを知った。小さい頃、近所の人が散歩しているワンちゃんを見て、襲われるじゃないかと思って震えたのを思い出す。 空を駆けるタカやトンビに食べものを獲られるのが怖くて、彼らの姿をいつまでも目で追っていた。 野良猫は可愛いと思いつつ、引っ掻かれはしないかと、疑いの目を捨てられなかった。 これまでの私は、本当の意味で、彼らのことを好きでなかったのかもしれない。 それが今、声が聞こえるようになってようやく、心が通じた気がするのだ。 学校の同級生や先生以上に、私のことを考えてくれる仲間。同じ人間ではないけれど、同等の立場で理解しようとしてくれる心優しい動物たち。 ここ数ヶ月間、私が求めていたこと。 家族以外の誰かに、自分の存在を認めてもらうこと。特別じゃなくたっていい。ただ、ここにいていいと言ってくれさえすれば、それで。 「……ありがとう」 気がつけば、涙で視界が歪んでいた。前が、見えない。今日は雪なんか降っていないはずなのに、白いもやがかかったみたいだ。 私は、決して一人じゃない。 そう思えるのは、間違いなくあの日、桜庭書房の店員さんからもらった『ブラック時計』のおかげだった。
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