第一幕 第1章 答えは誰の中にある?

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レジカウンターの奥には、一人の女性が座って本を読んでいた。 お店の人、一人しかいないじゃん。 小さな店だから、全然不思議じゃないんだけど。 それにしても、店番をしてるのに本なんか読んで、大丈夫なんだろうか。この人、アルバイト……? ぱっと見だけど、30はいってそう。パートの人だろうか。 「あの」 カウンターの目の前まで歩み寄っても一向に顔を上げない店員さん。 恐ろしい集中力。一体何を読んでいるの? 普段全く本を読まないあたしにとっては、彼女が読んでいる本がどんなジャンルの本かさえ分からない。細長くて薄めの本。文字はちっちゃそう。あたしだったら、数分もしないうちに飽きてしまうだろうな。 声をかけてようやく、あたしの存在に気がついたらしいその店員さんは、はっとして「ごめんなさいっ」と慌ててあたしの差し出した参考書を手に取った。 彼女が立ち上がったから、エプロンの胸元に付けられた名札が見えた。 名札には、「芦田」という名前の上に、「店長」という肩書き。 「店長!?」 思わぬ発見をしてしまったあたしは、びっくりして声を上げてしまった。まさか、店長さんだとは思わなかった。 「7560円です」 「……」 「あの……」 しばらく固まっていたあたし、店長が遠慮がちにあたしの顔を覗き込むような格好をして、ようやく我に返る。 「すみません」 お金、お金っと! 財布の中を覗いた。 五千円札一枚と、小銭が数枚。 「あれ?」 足りない。 足りないじゃない! 「あの、どうされました?」 店長は、なかなかお金を払わないあたしを、面倒臭がりもせず見つめている。 もしこの店が行列のできる評判の店だったら、店員さんをイライラさせていたことだろう。 「すみません。お金が足りないみたいで……」 本、一冊返してきます。 と、言おうとした。 言おうとしたんだけど。 あたしが言うよりも先に、「それなら」と店長の芦田さんが口を開いた。 「その本、あげます」 「え?」 どういう意味だろう。脳内で「あげる」という単語を検索し、「渡す」以外の意味を探そうとした。 上げる。 挙げる。 揚げる。 違う。絶対にどれも違う。 ぐるぐると、ない脳みそをフル回転させて必死に言葉を探したけれど、やっぱり彼女の言う「あげる」は一つしかないと分かった。 つまり、本当にくれるんだと。 代金を払わずにもえるのだと。 分かった。けれど、本当にそんなことしていいのか? あげるってことは、芦田さん自身が代金を肩代わりするの? どれだけお金のないあたしからしても、それはとても申し訳ないし、店長がそんなことしていいのかと、若干不安になる。 芦田さんは見るからに無愛想な感じの人で、さっきから少しも真面目な表情を崩さない。それが一層、彼女の真意をくらませた。 「あの……、それって、店長さんがこの本を買ってくださるってことですか……?」 なるべく失礼のないように、下から、下から。 「はい。ただ、一つお願いがあるんです」
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