ワタシへ

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「今、どこにいますか?」 ある晴れた秋空の下、私は公園のベンチに座って空へ向かって呟く。 その直後、突然の風に吹かれた木から落ちた紅い葉が私の膝に舞い落ちてきた。 手に取ろうとすると直ぐ様にふわりと飛び、広場の真ん中で他の葉と混ざりあいつむじ風に乗ってくるくると回る葉。 私と遊びたいのか警戒しているのか… 「あなたもいつもそうだったね。私の傍に寄ってきたと思ったら直ぐに逃げてしまう…」 すると後ろから聞き慣れた声がした。 「ニャー」 振り返るとそこには真っ白な毛並みで紅い目をした猫が一匹。 「ニャー、ニャー」 そう言って私の足元へ寄ってくる。 「お前…最近見掛けないからどこへ行ったのかと思ってたよ」 そう声を掛けて抱き上げようとするとタタタッと私の傍から離れた。 「もう…構ってほしいんだか何なんだか」 クスリと笑うとなんだか様子がいつもと違った。少し歩いた先で止まり私の方を見る猫。 「ニャー、ニャー」 そう言って私に向かって何かを訴えかけるように鳴く。 「…着いてきて欲しいの?」 話しかけても伝わるはずはないのだが、呼ばれている気がして近付く。すると猫はまた歩き出した。 「やっぱり違うか」 私ってば何しているんだろうと思った途端にまた猫が止まった。そしてまた私の方を向いて鳴く。 「ニャー、ニャー」 「やっぱり着いてきて欲しいんだ!」 なんとなく…、なんとなくだけど確信した私は猫の方へ駆け寄った。すると紅い目の猫は私が着いてきているのか確認するかの様に時々振り返っては歩いた。 「もうー…どこまでいくの?」 ニャーとしか鳴かない猫。本当に着いて行っていいのか悩み事始めた頃、突然凄い勢いで走り始めた。 「えっ!?ちょっと待ってよ!」 余りの突然さと素早さに驚いた私は紅い目の猫を見失った。 「えー…そんな結末あり?」 落胆した私はもう一度辺りを見回し猫を探すが、私の見渡せる範囲にはいなかった。 「もうー…どこへ行っちゃったの?」 仕方なく帰ろうとした時だった。 「ニャー」 声がする方へ視線を向けると… 「えっ!?あっ…」 そこには沢山の花が飾られていた。 そうだ。思い出した。 ワタシは1週間前ここで事故にあった。 どうして忘れていたんだろう… 「ニャー」 その声を聞いてまた1つ思い出した。 「おまえ…シロ?」 名前を呼ぶと足元にすり寄って喉を鳴らす。 シロはワタシの飼い猫で元は野良猫だった。小さい頃私が拾ってきてずっと一緒にいたけれど3年前病気で息を引き取った。 それ以来抱くことも撫でることも出来なかったシロ。 「そっか…ワタシが迷子になっていたから迎えに来てくれたの?」 「ニャー」 そう言って私はシロを抱き上げた。 「やっと触れた」 私はワタシをようやく見つける事が出来た。 「ただいま、シロ。今帰ったよ」 綺麗な秋晴れの空へ私は呟いた。
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