引っ掻いて

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引っ掻いて

「あ」 思わず吐息が漏れる。 疼く場所には掠めるだけの刺激しか与えられないのがもどかしい。 触れて欲しい——。 「ここ?」 低い声が耳を擽るからゾクリとして、余計にもどかしさが渦巻く。 彼の指先が欲しい場所をそっと撫で、スポットから逸れたところを引っ掻いた。 「ああ」 惜しい。そこじゃ、ない。 けれど言葉にできない。どこが私の欲しい場所かなんて。 「ここじゃない?」 笑いを含んだ声がまた耳を擽る。 面白がっているのだ。 私は身悶えながら眉根を寄せ、恨めしさを込めた目で、私の両手を拘束する彼の目をじっと睨んだ。 「違うっ、もう少し、もう少しだけ……右なの」 「こっち?」 どうしてこんな状況で両の手を拘束され、これほどまでに顔を近づけて見つめ合わなければならないのか。 しかも、私の説明とは逆方向にその手を這わせているのが意図的なことにだって、とっくに気づいているというのに。 あまりに我慢を強いられたせいで、目に涙が浮かんできた。 「もうっ、お願いだからっ」 「ハハッ、わかったわかった、この辺?」 「っ! ああ〜」 待ちに待った末に与えられた刺激に、恍惚の感嘆が漏れる。 「お前、変な声出すなよ」 「だってぇ……あー、超気持ちよかった!」 なかなか手が届かなかった。 触れて欲しかったのはあともう少しだけ右側だったのだけれど、途中で意地悪モードに入ってしまった彼に遊ばれて、散々待たされた。 だが、散々待たされてやっと痒いところを引っ掻いてもらえた喜びは、私にこの上ない爽快感をもたらしてくれたのだ。 あともう少しだけ体が柔らかかったなら、自分の背中くらい自分で掻けたんだけれど。 END
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