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篠田君はもうこの世の人じゃない。
だから、例えばスケッチブックに絵を描くような、新しく何かを生みだすことはできない。
先月、二月の終わりのひときわ冷え込んだあの日。
篠田君は植物公園に寄り道した帰りに、交通事故に遭って亡くなった。
自転車に乗っていたところを、前方不注意の車にはねられて、即死だったらしい。翌日に開かれた全校集会で、私たちは確かに彼を悼んだ。
それからしばらくして、久しぶりに一人で植物公園に立ち寄った私は、何事もなかったかのようにスケッチをしている篠田君を見つけた。
驚きのあまり心臓が止まりそうになったけど、不思議と怖くはなかった。
どうやら篠田君の姿が見えているのは、私だけのようだ。
私の見ている篠田君は、生前の彼と言葉を交わせなかった私の、後悔が作り出した幻影だろうか。
それとも、植物公園の名物の桜が咲く前にこの世を去った篠田君自身の無念だろうか。
どちらでも良かった。
私は、私にしか見えない篠田君に、勇気を出して話しかけた。その日から、公園のあらゆる花や草木が、いっそう輝いて見えるようになった。
もう少しだけ。
もう少しだけ、私は篠田君に、植物公園にいてほしい。
でも、やっぱり。
白いままのスケッチブックに、懸命に向き合い続けている篠田君を見て、私は心を決めた。
このままではいけない。彼を、きちんと終わらせてあげなければならない。
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