愛しい時間

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 入荷待ち半年のアロマキャンドルが届いたのは、記念日の前日だった。    電気を消した部屋で、テーブルの上に置いたキャンドルに火を灯す。  ぼんやりと優しい蜜色の灯りが、仄かに部屋の輪郭をゆらゆらと映し出す。  暗闇の中で、ほんのり漂う甘い匂いに、テーブルの向こう側で彼女は微笑んだ。 「ちっちゃい頃の誕生日ってこんな感じじゃなかった?」  どこか期待したような顔をした美羽の瞳の中で、キャンドルの炎が揺れていた。   「で? なあに? 話って」 「さあ、なんだと思う?」  はぐらかすように笑ってみせたら、眉間に皺を寄せて、いじけたような顔をする。  その顔が好きだから、ついついイジワルしたくなってしまうんだ。
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