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ちょうど一年前の記念日だった。
仕事帰り、待ち合わせてご飯でも食べようと僕は美羽を待っていた。
『ちょっと遅れるかも』の美羽からのメッセージに、目の前を行き交う人々を眺めながら待つことにした。
クリスマスまであと少し、街には僕らのような恋人たちがたくさんいて。
寄り添って手を繋ぎ、笑顔を交わしている。
ああ、温かそうだな、ずっとそうして寄り添って行けたなら。
浮かんだのは美羽の顔、一生一緒にいるなら彼女以外考えられない。
その足ですぐに、目の前にあったジュエリーショップに入った。
選び終え、ショップを出ようとした時、胸ポケットに入れていたスマホが振動する。
美羽からではなく、病院からの電話だった。
駆けつけた先で美羽の身体にはいくつもの機械が取り付けられていた。
青信号を渡っていた美羽やその周りの数人が、信号無視の車に撥ねられたのだという。
美羽のスマホの通話履歴の一番上にいたのが僕だったから、すぐに連絡を貰えたらしい。
紙のように白い顔をした美羽の頬に手を添えた。
それに気づいたかのように震えた瞼は、ゆっくりと細く見開かれて僕を捉えて微笑んだ。
それから口を必死に開けて「あ」の形になった、次の瞬間に。
美羽のつけていた機械が、ピーっという嫌な音を立てて、僕の目の前は真っ暗闇になった。
「だから、この指輪は、瑠衣には嵌めてあげない。今はね」
一つだけ、残った僕の指輪が入った箱は美羽の手によりパタンと閉じられた。
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