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雹は短時間で悪さの限りを尽くすと、あっさりと止んだ。
雲の切れ間から光が差し、さっきより青い空が顔を出す。濡れた生け垣の緑が眩しい。
これが新しい世界だったら良い。全てが無かったことになれば。
繰り返す別れも、居心地の悪さも。
ベビー・アレルギーも。
物干し場まで降り込んだ氷の粒が、陽の光を受けてキラリと輝いた時。
視界の隅に白いものが映った。
物干し場に真っ白な布が落ちている。
「上階の人の物かしら」
少々面倒な思いで窓の鍵に手を掛けた。
サンダルをつっかけて外へ出ると、モワッとした熱気が纏わりついてくる。
布に手をかけると、何故か重みがあった。そのまま布の端が引っ張られる。
「何なのよ、もう」
その場に屈み込んでみると──。
「いっ……!? ひいぃぃぃっ!!」
声にならない声が出た。仰け反った拍子に尻餅をつく。
それは、ただの布ではなかった。
あるものが包まれていたのだ。
エアコンの室外機の音だけが、やけに耳につく。
布の中身は。
赤ちゃんだった。
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