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何故こんな日に、こんな上天気なのだ。
まるで、あの男の晴れの門出を祝福するようではないか。
窓越しに男を見送る。
怒りと疲労が混ざり合ったような、捉えどころのない気分だった。
あの男とは半年前に終わっている。もう新しい女と楽しくやってるらしい。
今日は、この部屋に遺されたわずかな荷物を取りに来たのだ。
足早な後ろ姿は、早々に建物の陰に消えた。
窓の外には無機質な景色が広がる。
都心からは少し離れた、東京にしては静かな場所と言えるだろう。
就職のため上京し、五年ほどになる。
特段やりたいことがあった訳ではない。慣れるまでは苦労もしたが、住んでみれば実家暮らしより気楽なものだ。
エアコンで冷えすぎた部屋には、九月の午後の日差しが燦々と注がれている。
九月二十五日。
十畳のワンルームから、男の痕跡が全て消えた日。忘れられない日になりそうだ。
ただし、別れを告げられた日は忘れている。
向こうの女から見たら、私が悪役なんだろうな。
何かの演出かと思うほど完璧な空は、私ではない誰かを応援しているようだ。
舌打ちのひとつもしたくなる。
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