【短編】見上げた空に 晴れ間と雨雲

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初めて凌二さんの誕生日をお祝いする時、私が用意したのは二人で食べきれるサイズの生クリームたっぷりのミニケーキ。ロウソクを一本立てて、吹き消す凌二に『おめでと』って言えば、満面の笑みで「ありがと~」って。 凌二の誕生日。それは紘二の誕生日。 この日は"凌二のために"って思ってたのに、あなたはその上をいく。冷蔵庫から小さなホールケーキを取り出して。 「一緒に祝ってやろ」 "Happy Birthday to KOJI” 真ん中のプレートにはそう書かれていた。 どこまでも優しいひと。でもどうするの?私が用意したものより大きなケーキ。 「『…気持ちわるっ』」 二人で無理して食べたのもいい思い出。 会うのは一人暮らしをしていた凌二の家がほとんどだったけど、迎えにきてくれた時に母に見つかって半ば強制的にうちに上がらされた時もあったね。私の幼馴染・甲斐くんの親友ってこともあってすぐに母とも仲良くなっちゃって。何よりも、その笑顔が母を虜にした。 「お母さん凌二くんのファンになっちゃった~」 おば様キラー。そんな凌二がわたしの部屋でロックオンしたのは、枕元に置かれたクマのぬいぐるみ。きっと何かを感じ取ったんだと思う。 「プレゼント?」 『ううん、自分で買ったの』 そう、買ったのは私。持ち主は紘二だったけど。 「じゃあ、ちょうだい」 いいよ、なんて一言も言ってないのに勝手に車に乗せちゃった。そんな強引なところも、憎めないんだな。 甲斐くんに会った時、何であのクマが凌二のところにあるのかって聞かれたよ。甲斐くん知ってるもんね。前の持ち主。 『凌二さんなにか言ってた?』 「思い出して悲しい思いをしないように、だって」 いつだってそう。私が寂しい思いをしないようにって。悲しい思いをしないようにって。紘二の事故現場を避けて運転してくれてたのも知ってるよ。 私のところから凌二さんの部屋に引っ越したクマさん。いつの間にか凌二さんの香りになってて。ぎゅうっと抱きしめたら、なんか優しい気持ちになったよ。 それにね、また甲斐くんから聞いちゃった。 私が帰った後に寂しくなってクマを抱っこしながらテレビを見たりしてるって。本当にどこまでも愛しい人。
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