【短編】見上げた空に 晴れ間と雨雲

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美しい秋晴れが広がる。 10月は一年のうちでも清々しく、一番過ごしやすい季節。だから、好き。大切な人の生まれ月でもあるから。でも今日は最高気温が30度近くになると今朝のニュースでアナウンサーが言っていた。 うねりを求めてやってくるサーファーが多くなった湘南の海岸。R134沿いにある七里ガ浜海岸駐車場に車を停めて、目の前にあるコンビニでお茶とカップケーキを買って。駐車場に戻って海沿いの壁に腰掛けた。 スニーカーを脱いで脚を投げ出して、顔を上げれば変わらない江の島が見える。 ここに座ってたくさん話をしたね。二人のお気に入りの場所。でもあなたはいない。 今日は10月2日だよ。 紘二、20歳の誕生日おめでとう。お茶で乾杯だけど許してね、運転なの。あなたの事故から運転が怖くなってしばらくハンドルを握れなかったけど、時は残酷。今は平気。 紘二と二人で出かけた場所にも、一人で行けるよ。カップケーキも私が食べちゃうけど許してね。でもあなたは甘い物が苦手だったよね。 透き通るように青かった空は徐々に色を変え、紅く染まっていく。好きだったよね、ここから見るサンセット。秋の空はどこまでも、高い。 何組ものカップルが寄り添って眺める夕陽。私の隣には、沈みかける太陽を追いかけるように壁に腰掛けた一人の男性。サングラスをかけたまま、ただその夕陽を静かに眺めてた。そこだけ時が止まったみたいで、目を逸らせなかった。涙の雫が、その人の頬をつたった。 「ありがとう」 口元は、きっとそう動いた。
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