【短編】見上げた空に 晴れ間と雨雲

11/12
前へ
/12ページ
次へ
『甲斐くん、私ね凌二と結婚する』 「おめでとっ。ほんと良かった、結も凌二も」 甲斐くんは "俺の苦労も報われるーー" って伸びをする。なぁに、それ。どういう事? 私の質問に "マズイッ" って顔をして。俺のことだから、といくら待っても言わないから私の話を。 「この間の紘二の命日ね、朝早くにお墓参りに行ってきたの。そしたらね、誰かが来たあとでお花もお線香も添えてあった。覚えててくれた人がいて、嬉しかったな」 お花のチョイス的に家族じゃないと思った。やけに豪華だったし。 そう、あの日。凌二からプロポーズされた日は、紘二の命日だった。きっと凌二は覚えてないと思ったから、敢えて何も言わず、待ち合わせの前に一人お墓まいりに行ってきた。 それなのに、甲斐くんは驚きの事実を私に話す。 「それ、凌二だよ」 黙ってろ、と言われてたみたいだけど、甲斐くんは「まいっか」とその日のことを "俺の苦労" として話してくれた。 結にプロポーズする前に行きたいところがあるから付き合ってくれって。俺の決意を聞いておいてくれって。 早朝も早朝。叩き起こされて連れて行かれた場所は、紘二の墓前。そこで手を合わせ、今日プロポーズすること、本当は紘二がしたかったことを自分がしてしまうことへの詫び、その後に 「絶対に彼女を幸せにするから」 力強く言ってたって。甲斐くんはそれの見届け人だったんだって。 「凌二さ、いい顔してたよ」 "やべぇ~、キンチョーする~" って情けない声も出してたみたいだけど。 11月10日を選んだのは凌二のこだわり。偶然なんかじゃない。悲しい日になってしまった11月10日を、スタートにしてやりたいって。思い出した時、悲しむんじゃなくて幸せな気持ちになって欲しいって。 たくさんの愛をもらったね。私は少しでもあげられてる?凌二に逢えて、本当に良かった。 あなたが…好き。あなただけが…好き。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

314人が本棚に入れています
本棚に追加