【短編】見上げた空に 晴れ間と雨雲

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高校生の時、同じバイト先で知り合った1つ年下の男の子。紘二(こうじ)いつも「先輩かわいい」「俺と付き合って」なんてふざけて言ってた。 私が大学に進学してからはだんだん疎遠になったけど、2年に上がる年の春、地元の駅のホームで偶然再会。 「先輩、遊ぼ」 『忙しいよ』 「先輩、お試しでいいから俺と付き合ってよ」 『3か月ならいいよ』 「先輩のことマジで好き」 『…うん』 「(ゆい)…愛してるよ」 本当の愛の意味なんて分からない。 でも紘二は精一杯自分ができる事で私を想ってくれてた。 あの日もそう。 大学帰りにバイトをして、終電で帰る。そんな生活を週5日してた私と逢う時間を少しでも作ろうと、毎回地元の駅まで車で迎えにきてくれてた。 親と仲が悪いのか、高校を卒業したら就職してさっさと家を出て、車を買って。 「助手席は結専用ね」 納車された時、嬉しそうに笑ってたのを今も覚えてる。 「おかえり」 『ただいま』 ファミレスの駐車場に車を停めて、その日あった事を話したり、そのまま愛を確かめ合ったり。 『そろそろ帰らなきゃ』 「うん、また明日」 それが彼の声を聞いた最後。 翌日、一度も電話がつながらず、メッセージの返信もなかったから "まさか" と思って大学帰りに立ち寄った地元の交番。 『事故とかありませんでした?』 車の車種とナンバー、名前を伝えると、応対してくれた警察官が報告書のような書類を一枚一枚めくりだした。そして、あるページで手が止まる。 「…紘二さん、事故に遭われてます」 脚が震えた。 『えっと……じゃあ、入院とか…してるんですかね?病院、教えてもらえますか…』 声が上ずる。 「……お亡くなりになったんですよ」 それからは、どうやって家に帰ったか覚えていない。母にお願いして紘二の実家に連れて行ってもらい対面した。でも彼は白い布に全身を包まれていて、姿を見ることはできなかった。 道路工事渋滞の最後尾にいた彼の車に、大型トレーラーが突っ込んだと聞いた。 即死だったって。 初霜の知らせが全国から届き始めた11月10日、20歳の秋に私は愛する人を亡くした。
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