おんせん

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 箱根の街の散策も、そこそこ。旅館に着いて、まずは早速温泉につかりました。  兄貴は見た目に似合わず、割と隠さない方ではあったのですが…。今日は、何だかえらく恥らってタオルでしっかりとガードしています。もちろん、湯船ではマナーのため外すんですけど。理由を聞いても、明確には答えません。  「まあその、壁に耳あり障子に目ありって言うじゃん?いや、別にぼくなんかを盗撮する物好きがいるってわけじゃないんだけど」  えっ、そう?おれだったら、めっちゃ好き好んで盗撮するけど。  なんか、現国で習った話思い出した…。川端康成の、『伊豆の踊子』だっけ。あれは、踊り子さんが実は幼くて温泉でも全然隠さなかったみたいな話だったけど。でも、主人公に恋心が芽生えた後半ならきっと隠したんじゃないかなあ。  今の兄貴を見ると…。何だかそう、大人の階段を一歩上がった的な恥じらいを感じる。  翠山か、翠山のせいなのか?一時期は奴のことが頭から離れなかったらしく、四六時中溜め息ついてたし。  先日のデートでは、特にそう言う意味での進展はなかったようだが…。奴に兄貴の純潔を奪われる前に、性急に事を進めなければならないか。今回のこの状況は、兄貴との一線を越える絶好のチャンスでは?
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