おんせん

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 温泉から上がって、旅館備え付けの浴衣を羽織る。  祭り以外で浴衣を着るのは、小学校の林間学校以来だ。あの時は小学生が適当に着ただけなので、すぐに着崩れしてしまったなあ。  「ああ、駄目駄目。みな君、そんなに帯の位置高くしたらまるで女中さんだよ!」  そう言って、兄貴がおれの帯を解いて締め直してくれた。このやり取りも、何だか新婚夫婦みたいでいいなあ。  「サンキュー、兄貴。でも、せっかく着方教えてもらったけど絶対自分でやれる自信ないなあ…。何だよおはしょりって。大事な所なんだから、端折ってんじゃねえよって思わねえ?」  「サクちゃんと、一言一句同じこと言うんじゃないの!この場合、男の娘であるサクちゃんがもうちょい上品な言葉使えって話なんだけどね。みな君もせっかく男前なんだから、和服の着方くらい覚えなきゃ駄目だよ。後でお兄ちゃんが、手取り足取り教えてあげるから」  手取り(意味深)足取り(意味深)ときましたか!はい、是非とも手ほどきしてください!  何だろう。元々法的には兄貴のが年上なんだけど、今日の兄貴からは年長者としての威厳と言うか余裕を感じる。恋をすれば人間変わる、ってやつなのかなあ。
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