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5 一線を越える※※
「オレは、伊吹ちゃんが好きだよ」
強引に唇を奪われても、伊吹ちゃんはきょとんと目を丸くしている。オレの言葉の真意を汲み取ろうともしない。もう一度唇を重ね、今度はカサついた唇を抉じ開けて舌を捩じ込んだ。ようやく伊吹ちゃんは反応を示す。はっと口を開けて何か喋ろうとするが、その前に舌を絡め取ってしまう。呻き声が苦しそうだ。
「ふぅ……んっ……んむ……うぅ……」
そのうち手足をバタつかせて首を左右に振りまくるので、唇が離れてしまった。伊吹ちゃんは胸を押さえ、ゼエゼエと肩で息をする。
「おまえっ……ころす気か……っ」
「まさか。ただのキスでしょ」
「はぁ……? キスがこんな、苦しいわけないだろ……」
おや、この感じは。それほど長いキスだったわけではないのに、こんなにも息を切らしているなんて。
「もしかしてだけど、伊吹ちゃん、今のがファーストキスだったりする?」
意地悪く指摘すると、伊吹ちゃんは頬を真っ赤に染めて視線を逸らした。その仕草だけで全てがわかる。
「初めてなんだ。ごめんね、奪っちゃって」
「別にっ……こんなの、どうってことない……」
「今の、大人のキスなんだぜ? 知ってるだろう? 伊吹ちゃんだって、もう立派な大人なんだからさ」
「な、なに……」
下半身の動きを封じるように馬乗りになり、両腕をまとめて頭の上で押さえ付けた。ここまでされてもまだ、伊吹ちゃんは事態を呑み込めていないらしい。しかし再びキスを迫ると、唇を固く結んで顔を背ける。
「どうしたのさ。キスしようぜ」
「い、いやだ」
「どうしてさ」
「べ、ベロが……なんか、気味悪い」
「……ふーん」
「それに、唾液が……べたべたして、いやだ……」
「言ってくれるじゃないか」
伊吹ちゃんの小ぶりな顎を掴んで正面を向かせ、口の中に親指を突っ込んで無理やり口を開かせる。白い歯の間に赤い舌が覗く。オレの指を、伊吹ちゃんの唾液が濡らす。
「怖い?」
「っ! んなわけ――」
「舌出せよ」
声を低くして命令する。伊吹ちゃんは表情を強張らせ、恐る恐る舌を出した。ライトに照らされていやらしく光るそれに、オレは遠慮なく噛み付いた。
ねっとりと舌を絡め、唾液をたっぷり送り込む。この尖った犬歯に噛まれたら一溜まりもないだろう、などと思いながら歯列をなぞり、上顎を舐め、口腔内を余すところなく味わい尽くす。伊吹ちゃんは嫌がって首を振るが、その都度強引に正面を向かせた。
じきに伊吹ちゃんの呼吸は乱れていく。酸欠気味なのか、可哀想に。と思いながら唇は離さず、そのままトレーナーの裾を捲り上げた。下着代わりのTシャツも捲り上げ、素肌に直接手を這わす。
「んん……っ!」
腹筋の凹凸を指先でなぞる。オレの触れたところから、ぞわりと鳥肌が立っていく。フェザータッチであちこち撫で回し、よく鍛えられた胸筋を掌に包んだ。小柄なくせに大きな胸だ。堅い筋肉がハリのある肌を持ち上げ、今にも破裂しそうなくらい膨らんでいる。揉んでみれば弾力があり、指が跳ね返される。
身を捩って抵抗しようとする伊吹ちゃんの口を塞ぎ、胸の先端に申し訳程度に乗っかっている乳首を摘まんだ。ここも鳥肌が立っている。指の腹で強く押し潰し、引っ張って捏ねくり回す。両方同時に可愛がってやりたいが、今伊吹ちゃんの両手を解放したら殴られてしまうから諦める。
「っ……も、やめろ、寒い……」
「寒いだけ?」
馬乗りのまま、上体を起こして見下ろしてやると、伊吹ちゃんは上目遣いにオレを睨む。
「体中触られて気色悪い。お前が何をしたいのかわからない」
「わからないのかい」
「わかるわけない。とにかくもう触るな。気持ち悪い」
勉強とスポーツだけやってきました、という見た目から想像できる通りの初心だ。キスも初めてだったし、この先の知識がないのだろうか。
「おい、聞いてるのか……?」
不安と怯えを押し殺した目だ。ぞくぞくくる。どうしてだろう。こんなつもりじゃなかったのに。
伊吹ちゃんの体をうつ伏せに引っくり返し、両手を後ろ手に縛った。ちょうどいい紐がなく、トレーナーの袖を伸ばして縛って拘束した。暴れる体をどうにか押さえ込み、ジーンズとパンツを引きずり下ろす。引き締まった尻は上を向き、そこから伸びる太腿も筋肉の形が立派に浮き出ている。雪のように白い肌は、酒が入って仄かに赤い。
「ねぇ、伊吹ちゃん。セックスって知ってるかい?」
「ばっ、ばかにしてるのか! 知ってるに決まって――」
「じゃあこれがどういう状況か、わかるよね」
伊吹ちゃんの腰を高く持ち上げ、発情期の雌猫さながらに突き出させる。尻臀を左右に割り開けば、普段は固く閉じられているであろう菊の門が露わになる。
「君は今からオレに犯されるんだぜ」
肩越しにこちらを睨む伊吹ちゃんの双眸が大きく見開かれた。
犯すとは言ったが、いきなり突っ込むような乱暴な真似はしない。疎らな陰毛に囲まれた淡く色付く蕾に、ぺろりと舌を這わせる。女の子相手でもクンニリングスなんてあまりしないのだが、今日は特別だ。
「お、お前、何して……」
伊吹ちゃんは当然驚き、怯える。逃げようとして尻を振るが、誘っているようにしか見えない。構わずべろべろ舐め続ける。
「やっ、やめろっ……いやだっ、そんなとこ……っ」
「けどさ、いきなりしたら痛いだろう?」
「な、にが……っく、ぅ、いやだっ……」
可哀想に。友達だと思っていたやつに尻穴を舐められて、拘束されているから抵抗もできず、カーペットに頬を擦り付けて喚いているだけだなんて。
「ほら、ナカもかわいがってあげるから」
「ひぃっ!?」
ある程度緩んできたところで舌を捩じ込む。伊吹ちゃんは体を仰け反らせ、喜んでいるんだか泣いているんだかわからない悲鳴を上げた。舌先でちろちろと入口近くを舐めたり、舌を回して穴を拡げてみたり、性交の真似事で舌を抜き差ししてみたりする。嫌がって逃げる腰を捕まえて、顔を埋めて愛撫する。
「な、んで、こんなっ……おまえ、なん、で……ひっ、ぅ、やだ、やだぁ……っ!」
舌が攣るまで舐めて、口を離した。オレの唾液でべたべたに濡れている。固く閉じていた蕾は柔らかく花開き、呼吸するようにヒクついている。手を放してみても、伊吹ちゃんは尻を高く上げたままぐったりしている。
オレは素早く自身の前を寛げた。触ってすらいないのに既に臨戦態勢に入っている息子を、丹念に育て上げた花弁に宛がう。違和感に気づいた伊吹ちゃんがはっと振り返るがもう遅い。いきり立った己を躊躇なく突き挿した。
「ぅぐっ……!」
伊吹ちゃんは喉を鳴らして低く唸る。十分解したと思ったがかなりキツい。締め上げられる。しかし今更止まれない。異物を追い出そうと蠢く腸肉を掻き分けて、ようやく根元まで埋まった。
「すご……伊吹ちゃんのここ、オレのを全部呑み込んでるぜ……」
うっとりと囁いても苦しそうな息遣いしか返ってこない。
「ねぇ、どうだい? 初めてのセックスの感想は?」
「……んなの……」
「うん?」
「こ、んな……ックス、じゃ、ない……」
「セックスだろう、どう見ても! 伊吹ちゃん、今オレに抱かれてるんだぜ。わかるだろう?」
「ちが、う……こんな、っ……う、うそだ……っ」
「嘘でも何でも、セックスはセックスだよ。オレが伊吹ちゃんの最初の男なんだぜ。生涯忘れないでくれよ」
「いや、だ……ふっ、う……やだ、やだぁ……っ」
ゆるゆると腰を振り始めると、伊吹ちゃんはやだしか言わなくなる。
「そう嫌がらないでくれよ。痛くないだろう? あんなに慣らしたんだから」
「い、やだっ……もう、抜いて……っ、は、はなせ……」
「そう急かさないで。挿れたばっかりじゃないか。……ああでも、伊吹ちゃんのナカ気持ちよすぎて、すぐ出ちゃうかも」
俯いているので表情はわからない。腰を打ち付ける度、伊吹ちゃんのお尻がぶるぶる震える。膝は立てているが、ガクガク震えて今にも崩れ落ちそうなので、腰を掴んで支えてあげる。突かれる衝撃で声が漏れるが、女みたいに媚びを売る声ではなく、必死に押し殺した末にどうしても漏れてしまうといった声で、それがまた男の劣情を誘った。
それに加えてこの状況。隣に行けばベッドがあるのに、わざわざリビングのカーペットで行為していること。オレはほとんど脱いでいないのに、伊吹ちゃんだけ衣服が乱れていること。下半身は丸出しなのに、上は厚手のトレーナーを着ていること。オレはこの上なく興奮しているのに、伊吹ちゃんはやめて抜いてと泣いていること。全ての不均衡が劣情を煽る。
「はっ……もう、出ちゃうかも。いい? ナカ、出していい?」
「な、か……?」
「そうだよ、伊吹ちゃんのお胎の中。種付けてあげる。赤ちゃんできるといいね」
「っ!? やっ、いやっ、やだっ、抜けよっ!!」
「そんなこと言わないで、受け止めておくれよ」
ラストスパートだ。激しいピストンを繰り返す。伊吹ちゃんはなんとか逃れようと身を捩るが、可哀想にその姿さえも興奮の材料となってしまう。上から押さえ込んで、ガンガン腰を使った。筋肉のぶつかり合う音が耳障りだ。
「うっ、はぁ、もうだめ、出すよ……ッ」
「ひっ、ぁ、やだ、やだぁ……っ……」
一滴残らず、奥へと注ぎ込んだ。腰が痙攣する。視界が弾け飛び、意識が遠のきそうになる。こんな射精は久しぶりだ。中一で初めてオナニーした時と同等の快感だ。もしかしたらそれ以上かも。後にも先にも、こんな射精は二度とない。
確実に孕むようにと、まさかそんなことがあり得ないとわかっていながら、ぐりぐりと奥に擦り付けてから抜去した。白い粘液が糸を引き、いやらしく開いた穴からどろりと零れる。もったいないので指で掬って、中に塗り込んだ。
伊吹ちゃんは力なくうつ伏せに倒れている。呼吸に合わせて肩が大きく上下する。オレはその体を仰向けに転がした。オレを見上げるその瞳からは光が失われ、涙でぐっしょり濡れて酷い顔になっていた。カーペットと擦れたのであろう額や頬や鼻の頭が赤くなっていた。カーペットの方も、涙や涎を吸ってべしょべしょになっていた。
「……ごめんね」
というオレの呟きは、寒い部屋に吸い込まれるばかりだった。
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