一杯目   聖ルチアでお茶を

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 お酒をあまり飲めない私だが、熟睡するためにノビタと一杯飲むことが習慣となっていた。だがエマにカフェインについて指摘された後、アルコールなしでも深く眠れるようになった。  私はシャワーを浴びて即寝床に着いたが、ノビタはまだリビングで一人飲みをしていた。ヨーロッパの人は、驚くほどにお酒に強い。アルコールに弱いと言いながらも、ワインボトルを半分もあっという間に飲み干したフランス人のクラスメイトを見ていると、我々日本人とは基準が違うんだなと気付かされた。ノビタも例外ではない。  シャワーを浴びた時、風呂場が綺麗になっていることに気づいた。洗面台に小さな観葉植物まで置いてあった。きっとノビタだ。  予想外なことに、ノビタは大の掃除好きである。大家さんとシェアしていた時もアパートを清潔に保っていたが、ノビタが来た途端、共有スペースの清潔さは違う次元に達した。なんというか、清潔かつお洒落になったというか、女子力の高さを感じずにいられないというか。この人はきっといい奥さんになれる!と私は確信した。その異次元に洒落た空間を乱さないよう、私は最大限の注意を払った。   学校からバイトに向かう途中、スーパーに寄ろうとサン・ジェルマン・デ・プレ教会前を通った。教会前の木陰で、若い女性ふたりがバイオリンを弾いていた。日本ではあまり見かけない光景だが、パリでは地下鉄や観光スポットでよく見かける。楽器がいろいろで演奏レベルもいろいろだが、音楽が流れているだけで映画の中にいるような気分になれた。それは、歴史あるこの街でしかかからない魔法かもしれない。
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