一杯目   聖ルチアでお茶を

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 サン・ルチアでの最初の勤務日、私は店長につきっきりでお茶についての研修を受けた。お茶の歴史はもちろん、その美味しい入れ方、アイスティーやミルクティーの作り方、茶器の種類や違い、店内の衛生管理、レジの使い方、などなど、目まぐるしいほどの情報量が一度に脳に入ってくる。しかもフランス語で。店内で扱っているお茶は数十種類もあり、その特徴や名前を暗記しないといけない。もちろんフランス語で。抹茶の立て方は健康マニアの客によく聞かれるらしく、日本人の私はそれを完璧に説明できるようになる必要がある。当然フランス語で。日常会話をやっとこなせるようになった私にとって、神に与えられたこの数々の試練は、どれも手強いものだった。   説明が一段落すると、店長は紅茶を数種類、コップに入れて持ってきた。 「これは店内で人気の紅茶だけど、飲んでみて。ほんとは全種類味見してもらいたいけど、まあ。それはゆっくりでいいから」 「はあ、わかりました。お茶は好きなので、できるだけ早く全種類制覇を目指します」  出された紅茶は、どれも香りが良く、色が綺麗。紅茶を入れる時間は基本的には二分半だが、味の好みによって多少変えたりする。  サン・ルチアにはフレーバーティーも多くあり、チョコチップが混ざってあったり、バラの花びらが入っていたり、個性豊かなお茶も少なくない。また、お茶だけでなく、それを入れるお茶缶も種類が多く、可愛いものから大人っぽいものまで、幅広いデザインをそろえていた。  店のお茶は、商品を知る必要があるということで、店員は貴重な茶葉以外なら好きに飲んでいいことになっていた。仕事のためとは言え、ランチタイムや休憩時間に、気になったお茶を試飲することが私の楽しみとなった。 「結月、この時間に紅茶をそんなにがぶ飲みすると夜眠れなくなるわよ。カフェインが多いから。ほら、ハーブティーにしたら?」
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