一杯目   聖ルチアでお茶を

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「たまに中華料理のレストランで頼むけど、あまり飲まないかな」 「じゃあ、玄米茶はどうですか」  玄米茶のサンプルを開けると、ほのかに玄米の香りが広がった。  緑茶を飲みなれていないフランス人には、いつも玄米茶をすすめるようにしている。米の香ばしい香りがお茶の苦みを消してくれるから、緑茶初心者でもおいしく飲める。 「じゃあそれでお願いします。思ったよりも安いから、一キロで」  おじさまは玄米茶の香りをしばらく嗅いだ後、値段を一目見て、一キロの購入を瞬時に決めた。  一キロ?一キロ!キロ単位でお茶を買う人はめったにいない。 「ほんとに一キロでよろしいですか」  私は自分の耳を疑いながら、そう聞き返した。 「はい。ベルギーに住んでいてね、めったにパリに来れないから、買い溜めておかないとね」  おじさまはそう言うと、笑顔でウインクをした。私は苦笑いしながら、玄米茶一キロを紙袋に入れた。  サン・ルチアのお茶は、鮮度を保つため、五十グラム単位で密封した袋に入った状態で店に届く。一キロだと二十袋になる。緑茶は紅茶に比べて賞味期限が短いが、それでも1年くらいは持つ。冷蔵庫で保存すれば賞味期限がもう少し長くなる。  大きな紙袋を抱え、おじさまは嬉しそうに店から出て行った。    家に着くと、リビングでノビタがサラダとバゲットを食べていた。彼の食生活を見ていると、どうしてひょろ長に成長したのかが良くわかった。火を使う料理は基本的にしない。夕食は大きなサラダがメインで、ハムとチーズをバゲットに挟んで食べることが多い。  ワイングラスを揺らしながら、ノビタは私を食卓に誘った。 「結月お帰り。ワイン一緒に飲まない?甘めで、結構おいしいよ」 「ありがとう。でもいい。今日は飲まなくてもよく眠れそう。ノビタ飲みすぎないようにね」
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