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 ちなみに、あっさりハマってみせたが、V系の音楽が好きなのかと聞かれれば、まあそれなりに、と返すだろう。普通に好きな音楽のひとつ。クラブ世代の元ギャルだからと言ってEDMばかり好むわけじゃない。  触れないのは演歌や民謡くらいのもので、ポップスにロック、ジャズ、クラシックからボカロに至るまで何でも聴く。ジャンル問わず、体の真ん中が「いい」と言えば、それが「いい」もの。素直にそう思える自分でいたい。  音楽だけでなく、あらゆる窓口は広くあろうと心がけている。偏見や固執は価値観を歪め、得るものを少なくしてしまう気がするから。何事も経験値は多い方がいいに決まっている。  まあとにかくそんな感じで夜更かしをし、サボりたいとグダグダした挙句、急に冷静になって飛び起き家を出た。でも、ほぼノーメイクなのはいつものこと。  どうせメイクをしたって若い頃のように綺麗になれないからとサボりがちなあたしはつまり、歩くお目汚し。国は速やかに、四十(しじゅう)を超えた女のスッピンを猥褻物陳列罪か何かに定めてくれ。そしたらする、仕方なく。  電車の中でもコドクの音をたっぷり堪能し、妙にノリノリで出勤した。しかし、仕事はすこぶる退屈である。携帯電話の申し込み処理をするだけの簡単な業務。フロアは私語厳禁でしんと静まり返っているから、余計に眠気を誘ってもう今にも意識を手放しそうになる。 「川原さん。ちょっといいかな?」
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