翼が欲しかった少女の物語

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(さっきの人達とかち合わせちゃったら、どうしよう) だけど、これ以上待ちたくなかった。 彼女達が出ていってから約三十分後。 「いらっしゃいませ」 意を決して開けたドアの先は。 「お一人ですか? よろしければカウンターのお席も空いていますが」 (違う) 多分アルバイトの青年(顔立ちは彼も整っていたけど)に促され、頷く。 「はい」 ランチタイムより少し早い時間だったようで、カウンターの隅の席を確保できた。 メニューを受け取り、ぱらぱらと(めく)る。 (うわ、緊張する) 飲み物の欄を見るとコーヒーのところに豆の種類が書いてあった。 念のため調べてきたから大体は分かるけれど、コーヒーに砂糖もミルクも入れる派としては無難なものしか頼めない。 オーダーしようと顔を上げたとき、お冷やとお絞りが置かれた。 「いらっしゃいませ。ご注文でしたら承ります」 カウンターの中に居たのだろう。 先日の男性──久我さん──が微笑んでいた。 緩めのウルフカットの黒髪に焦げ茶の瞳という、よくある配色なのに美形度が分かるとはこれ如何に!? (正面から来たっ!!) 想定外の攻撃に脳内の精鋭軍隊が『我々はもうダメですっ!! 隊長だけでもっ!!』『ここまで来て何を言ってるんだっ!!』と壊滅の危機に陥っていると、 「あれ、やっぱり君もオーナー目当て?」 振り返るとさっきのアルバイトの青年がいた。 「こら、お客様をからかうんじゃない。五番にモカとグアテマラ、入ったぞ」 「すみませんでした」 久我さんに窘められた青年が私の方を向いて謝ってきた。 「いえ」 とっさにそれだけしか言えなかったが、久我さんは微笑んでいた。 「ごめんね。変なこと話しちゃって。ゆっくりしていってね」 (うわあ、天使……神レベルの笑みだ)
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