翼が欲しかった少女の物語

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鋭いブレーキ音がした。 「……」 クラクションを激しく鳴らしながら走り去る車。 その時信号が変わり、何事もなかったかのように歩き出す人びと。 そう何も……。 (何ともなかった) 助かってしまったという後悔と安堵とでため息が漏れる。 (あーあ、結局何も変えられなかったな) もう一つ、重いため息をついたときだ。 「そのため息はどういう意味かな?」 二度と会うことはないだろう、と思っていた人がそこにいた。 『ラ・シャルール』のバックヤードに私達はいた。 ロッカーが並ぶ小さな部屋に置かれたスチールの机の無機質さが私を責めているようで。 (何で見つかっちゃったんだろう) あんなみっともないところを見られて、と俯いていると目の前にカップが置かれた。 (コーヒーじゃない?) 「ハーブティー。落ち着くよ」 (何か久我さん、動揺してる?) そこで私は気が付いた。 (もしかして私、久我さんに振られたからあんなことしたと思われてる!?) 「あの」 「何かな」 「違うんです」 そこからは必死に説明した。
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