翼が欲しかった少女の物語

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慌てて一歩下がろうとして、余計おかしいことに気付いてまごまごしてるうちに男性はそのドアへ吸い込まれてしまった。 (ああ) がっかりした気分でゆっくりそこへ足を運ぶと、そこは『la chaleur』というレトロな喫茶店みたいだった。 (何て読むの?) 『la』があるってことは、フランス語だと当たりをつけてスマートフォンで検索すると、出た。 (シャルール、……熱、ね) 英語だとヒートかな、と思いを巡らせながら前を通りすぎる。 (今日は定休日なんだ) なるべく自然に見えるように横目で観察すると、そこは小さな(ひさし)と生け垣がついた、年号ふたつ前を思い起こさせる、個人が趣味で営んでいるようなお店に見えた。 (席は四人掛けとカウンター、ああ過ぎちゃう) 脳内でちらりと見えた店内(紗のカーテンでぼんやりとしか分からなかったけど)を再生していると、更に路地は細く入りくんだ体をなしてきた。 (ここから引き返しても大丈夫だよね) さすがにそのまま知らない道を突き進む勇気はないので、不自然に見えないよう引き返すとさっきの喫茶店が見えた。 (今度は、どうかな)
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