翼が欲しかった少女の物語

8/17
前へ
/17ページ
次へ
二階に上がってほっと息をつく。 (疲れた) 宿題を片付けて少しだけスマートフォンを弄れば、あっという間に日付が変わってしまう。 (あのお店に行くような服あったかな) できれば人がいないときに行ってみたい。 『いらっしゃいませ』 想像してみて、気付いた。 (そう言えばどんな声なのかも知らない) 取り敢えず有名な声優さんで脳内再生して、ベットに入った。 (いい夢だといいな) 上半身はカジュアルに、そこにプリーツスカートを合わせワントーンでまとめる、と。 サイトで閲覧したものは何通りかあったけれど、これが一番合わせ易かった。 土曜日の午前中。 私は例の喫茶店がある駅前のファッションビルにいた。 こういう時って駅のお手洗いでメイクしたりするみたいだけど、そんなことしたら目立ちそうだし、それにここにはお手洗いの他にパウダールームもあるから。 (検索、って本当に便利だな) クッションの効いた背凭れと肘つきの椅子に腰掛けて、メイク道具を取り出したときだ。 「やだ、これちょっと違った」 慌てたような二人組の女性が入ってきた。 (うわ、何かきれい) カジュアルな服に見えるけど、よく見れば分かるブランドものの小物やバックを合わせていて、着なれた感がある。 少し離れた席を選んだ彼女達は、 「そのシャドウちょっと濃かったね」 「もったいないけど落とすわ。久我さん、そういうの苦手みたいだしね」 「そうなの?」 「うーん、飲食業ってのもあるんだろうけど、前にメイクが濃い娘が来たことあってね。久我さん、スマイルしてたけど、引いてたみたいだから」 「そうなんだ。だけど幾ら久我さんがイケメンだから、ってそこまで盛る?」 「まあメイクは化ける、っていうけど、ああいう化け方はしたくないよね」 そんな話が進むうちに私の顔から血の気が引くのが分かった。 (え、まさか)
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加