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「なんで優くんがインドにいるの」
「僕が鬼だからだよ」
「ええ……?」
沙耶はまるで意味がわからないという風に言葉を失った。
僕は改めて彼女を見る。当然のことながら昔とは少し雰囲気が変わっていた。髪型も、日に焼けた肌の色も。
「話があるんだ」
けれど声をかける直前に見た彼女の表情は、あの日と同じように悲しげで。
だから僕は伝えなきゃいけない。
「沙耶。僕は君がいなかったらインドなんて来なかったと思う」
ここに来るまでの景色は忘れられない。
見たことのない模様。聴いたことのない音楽。食べたことのない料理。嗅いだことのない空気。触れたことのない土地。
自分を取り巻くすべてが新しい。これが世界地図のほんの一部なら、世界ってのはどこまで広いんだろう。
「沙耶のおかげで、僕の世界は広がったよ」
彼女の表情が変わる。
世界の広さを教えてくれたのは君で。
世間の狭さを教えてくれたのも君だ。
君のいる場所はすごく遠くて、それでも会おうと思えば会いに行けるんだって。
「だから、できれば」
あの時言えなかった言葉をやっと言える。
隠れても隠れていなくてもいい。世界の何処にいたって構わない。
だから今まで通り、今日も明日も明後日も。
「ずっとそばにいてほしい」
――彼女の泣いている顔も、僕は久しぶりに見た。
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