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「優くんはこれからどうするの?」 「なんにも決めてないや。カレーでも食べてから帰ろうかな」 「ほんと何しに来たのよ。ま、じゃあ私が案内してあげる。おすすめのカレー屋さんもあるよ」  太陽から逃げるように入った日陰で、沙耶が呆れたように笑う。彼女の涙はもうすっかり乾いていた。  今後の予定も立てないまま飛行機に乗り込んだので住民の案内はとても助かる。沙耶おすすめのカレー屋さん、というのも楽しみだ。  だがその前にもうひとつ、やらなければいけないことを思い出した。 「そうだ。今日はこれを渡そうと思ってたんだ」 「え、これって」  僕はリュックサックから取り出したビニールの包みを彼女に差し出す。 「あの漫画終わったよ。110巻完結だって」  重なった三冊の漫画本。  その一番上の本には『堂々完結!』と大きく書かれた帯が巻かれている。 「……え、もしかしてこれ届けるためにインドまで来たの?」 「人間ってそういうとこあるよな」 「いやないでしょ。何考えてるの」 「この物語がフィナーレに向かうのは幸せだって前に言ってたから」  沙耶と目を合わせる。  その真っ黒な瞳は昔からちっとも変わっていない。 「幸せは飽きない、だろ」  異国の熱い風が僕たちの間を吹き抜ける。彼女は目を逸らして「そんなの憶えてたんだ……」と独り言のように呟いた。 「もしかしてこの漫画読んだ?」 「全部読んだ」 「あーやっぱりね」  納得したように沙耶は頷いた。  その耳元は少し赤らんでいるようにも見える。   「すっかりロマンを学んじゃってさ」  沙耶は両手を伸ばし「ありがとう」と漫画本を受け取った。  そして抱き締めるようにそれを胸に抱えて、微笑む。 「先に言っとくけど、大好きだよ」  そう言うと彼女は可愛い顔をした。  僕は今日来たばかりだというのに、帰りたくないなと思った。 「それは()のセリフだよ」 (了)
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