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「もういーかい!」
「まーだだよ!」
壁に顔を向けて叫ぶと、部屋の外から沙耶の声が聞こえた。どうやら違う部屋に隠れているらしい。
家が隣同士だった僕と沙耶は小学生の頃から仲が良かった。毎日のように会っては遊んでいて、特にかくれんぼをするのが好きだった。
「もういーかい!」
少し待ってからもう一度叫ぶと「もーいいよー!」とさっきよりも小さく籠ったような声が聞こえた。
よし、と僕は沙耶の捜索を開始する。
彼女が隠れるとしたらどこだろう。暗いところは苦手だからきっと押し入れの中ではない。トイレに鍵を掛けて立て籠もるような卑怯な真似もしないはずだ。
僕は扉を開けて部屋の外に出ながら、彼女が隠れている場所を推測する。ひとまず台所に入り、冷蔵庫と食器棚の隙間を確認するがそこにはいなかった。ベッドの下にも、浴槽の中にもいない。
「あれ、どこだ……?」
そうだ、とふと閃く。川を眺めるのが好きだって前に言ってたかも。
微かな記憶を頼りに僕は階段を上る。二階にある寝室をぐるりと見回すと、微妙ではあるがいつもと違う膨らみを見つけた。
「あ! みーつけた!」
「わ、みつかっちゃった!」
カーテンの陰に隠れていた沙耶を指差して叫ぶと、悔しいような楽しいような表情の沙耶がゆっくりと姿を見せた。
「くそー、でもこのどきどきがくせになるのよね!」
「わかるわかる。たのしいよね」
「うんうん、たのしいはしあわせ!」
真っ黒な瞳を隠すように満面の笑みを浮かべる彼女を見ていると、なんだかこっちまで楽しくなってくる。
だから僕は人差し指をピンと立てて振り上げた。
「たのしいからもういっかいやろー!」
「いいよー! しあわせはあきない!」
今度は鬼を交代し、沙耶が壁に顔を向け、僕は最高の隠れ場所を見つけるために部屋を飛び出す。
「もういーかい!」
「まーだだよ!」
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