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「なんか、寂しいね」
泣きながら笑う彼女を見た瞬間、僕の固めていたはずの覚悟がぼろぼろと崩れ落ちた。胸の内から、堰を切ったように気持ちが流れ出す。
寂しい。行ってほしくない。ずっとそばにいてほしい。
僕はようやく自分の気持ちを理解した。
けれど、そんなことを言っても傷つけるだけだってこともわかってる。どう足掻いても彼女の移住を止められるわけじゃない。
「……じゃあ」
でも、たとえそうだとしても。
ここでさよならなんて、絶対に嫌だ。
「じゃあ、かくれんぼしよう。今度は世界規模で」
「え?」
艶やかな涙の跡を残した彼女は驚いた表情を浮かべた。
意味わかんないよな。僕だってわからない。
「僕が鬼をやるから沙耶は隠れてよ」
どこに行っても僕はずっと君のことを憶えている。
ただ、それを伝えたかったんだ。
「……うん、わかった」
「まあ見つかる気はしないけど」
「あはは、世界は広いもんね。でも見つからなくてもいいんじゃないかな」
涙を止めた彼女はいつも通りの笑顔を見せた。
「ずっと私を探しててよ、優くん」
沙耶の言葉に頷いて応える。それから互いに見合わせて笑いあった。
これでいい。僕たちにさよならは要らない。
その代わりに。
「もういーかい」
「まーだだよ」
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