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「沙耶ってインド語喋れるの?」
「ヒンディー語ね。全然だよ。でもカナダとかシンガポール行ってたから英語はちょっとできるんだよね。それでなんとかなってる」
「おお、バイリンガルだ」
「そう。私もすっかり帰国子女」
「帰国してないけどな」
電話口から流れる沙耶の笑い声が右耳を満たす。
海外に行ってしまった沙耶とはほとんど毎日電話やメッセージを交わした。
大変なことも多いだろうに、彼女はいつも他愛のない話をして笑っていた。強いなと思う。
「世界は広いからなかなか帰れないんだよねえ」
「そういえば世界は広いって言うけど、なんで世間は狭いって言うんだろうな」
「確かにねえ。でも世間ってなに?」
「……自分との繋がり、的な?」
改めて訊かれるとよくわからない。彼女も同じだったようで「うん、よくわかんないや」と笑った。
ふと駅の構内にアナウンスの音が流れ、電話を当てているのとは逆の耳に届く。もうすぐ電車が来るようだ。
「ごめん。電車乗るから一回切るよ」
「あ、今から大学? 大変だねえ」
「まあな」
そんなことを喋っている間にも、電車はゆっくりとホームに姿を見せて停車した。そして息を吐くような音とともに扉が開く。
「じゃあまた連絡するね」
「うん、また」
そう言って電話を切り、僕は電車に乗り込んだ。
車内に人はまばらで、空いている座席に腰掛ける。すると、さっきポケットにしまったばかりのスマートフォンが震えた。
『ところで今日の朝ご飯はなんだった? 私はやはりカレー』
沙耶からのメッセージだった。また連絡するとは言ってたけど早すぎだろ。
まあ、僕も今は少しでも彼女と話していたいけどさ。
『カレー好きすぎだろ』
『うん、だってせっかくインドにいるしね。で、優くんは?』
『カレーパンとスープカレー』
『カレー好きすぎでしょ』
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