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「……僕もそう思うよ」
「うん、そっか。そうだよね」
「ああ。そろそろかくれんぼをする歳でもないしな」
電話口から声が途絶えた。
彼女は今泣いているのだろうか。それとも微笑んでいるのだろうか。この距離じゃ何も見えない。
僕は「沙耶」と彼女の名前を呼ぶ。
「前にさ、かくれんぼの良いところ話したの憶えてる?」
「あ、鬼が探してくれるところ?」
「そうそう。沙耶はそう言ってたね」
スマホが熱くなってきた。
画面と耳が触れ合わないように少しだけ離して、僕は途切れたセリフを繋げ直す。
「でも、僕はそれだけじゃ足りないと思う」
「足りない?」
「かくれんぼの良いところはさ、絶対見つからない場所を一生懸命考えて、流石にここには来ないだろってとこで息を潜めて、それを鬼が必死になって探し回ってさ」
そこまで言ったところで僕は通話を切った。
そして目の前で、地獄みたいな川面を見つめる彼女に向かって続きを話す。
「最後には見つけてもらえるところだと思うんだよな」
四年振りの幼馴染は耳に電話を当てたままの姿勢で、大きく見開いた目をこちらに向けた。
「……うそ」
微かに開かれた口元からそれ以上の言葉は出てこない。僕は眩しく照りつける日光を睨みつけながら額から流れる汗を拭う。
そして再び彼女に向き直った。
「ほんとに暑いんだなインドって」
さて、じゃあ希望通り。
僕たちの世界万国かくれんぼを終わらせよう。
「みーつけた」
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