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駅のホームから昇りのエスカレーターに乗っていると、隣の降りエスカレーターに乗っている年増の女の手が目に入る。皺が寄って赤みがかっている。ずっと目で追う。 エスカレーターの革に捕まっている人の手、手、手。それぞれ違う手、手、手。他のものが見えなくなる。手の列だけが闇に浮かび上がり、迫り、通り過ぎていく。それらしか世の中には存在しない。存在していても手以外のものは全て手に付属した要素だ。人間の顔も声も内面も全て手の付属物だ。本質は手だ。 嘘。いや嘘ではなく、手だ。
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