35人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ生乾きの体操服を胸に抱え、あいつらに見つからないようにきょろきょろとあたりを見渡す。よかった、まだ来てないみたいだ。
誰よりも早く学校に来た私は、こそこそと体操服を持って女子トイレに入る。洋式の便器の蓋を閉めて通学鞄を置き、その上に制服を置いて素早く体操服に着替えた。
よし出よう、とドアノブに手をかけたところで、人が入ってくる気配がする。
「あいつ今日来んのかな?」
「体操服隠されて着るものないから来ないんじゃないの」
「やだー、かわいそーう」
「うわっ、隠せって言った本人がそんなこと言ってるの、こわすぎ!」
きゃあきゃあと楽しげに声を上げながら、女子数人が入ってきた。洗面台の前を陣取っているようだ。
あいつらだ。
一瞬にして、足元の地面がなくなったような感覚に陥る。こわい、見つかったらどうしよう。
足が震え、寒気がする。だんだんと気持ち悪くなってきたが、ここで吐いたら私だとバレてしまう。
落ち着け、まだ私がいるってバレてないんだから。
震える足を必死に踏ん張り、ドアに耳をつけて外の気配を窺った。幸いにも、彼女らは私に気づくことなく出ていった。
そっとドアを開けると、中学生がつけるにはまだ早過ぎる香水の臭いがした。いろんな臭いが混じって鼻がひん曲がりそうだ。
顔を顰めて鼻をつまみ、またこそこそとトイレを出る。着替えをどこに隠そうかと考えながら、教室へと重い足取りで向かった。
最初のコメントを投稿しよう!