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ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、
母トラのトミィは、崖の上を登った。
お腹の赤ん坊達を庇いながら、ゆっりゆっくりと崖に鋭い爪を食い飲ませて、
ゆっくり、ゆっくり。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、
ずるっ!!
ずりずりずりずりずりずりずりずりずり!!
「やばっ!!爪が岩場を滑って滑落しそうになったわ!!くわばら・・・くわばら・・・」
九死に一生をえた母トラのトミィは、再び血が滲む爪を岩場の隙間に立てて、ゆっくりゆっくりと崖の上を登った。
「ふぅ・・・やっと、崖を登りきった・・・ここまできたら、もう人間どもに狙われないわ。」
母トラのトミィは、脚を組んで崖の外を見下ろしてため息をついた。
「パパ・・・産むわ・・・貴方との愛の証を・・・」
母トラのトミィの番の父トラの名前は『タニー』と呼んだ。
・・・・・・
「パパぁーーーーー!!」
密猟者が猟銃からひっきりなしに放ってくる銃弾の雨の中、トラ家族は散り散りになった。
「パパぁーーーーー!!何処よ!!パパぁーーーーー!!」
母トラのトミィが、混沌としたジャングルじゅうを駆けて大声で呼び掛けても呼び掛けても、父トラのタニーの声が全く聞こえなかった。
「パパ・・・何で私を裏切るの?あの結婚の誓いの時、「どんな時にも何時でも一緒だよ!」って言ってたの・・・嘘だったの?!
パパぁーーーーー!!何処よパパぁーーーーー!!」
錯乱状態の母トラのトミィは、大声で泣きながら叫び続けた。
ダーーーーーーーーン!!
ダーーーーーーーーン!!
ダーーーーーーーーン!!
ダーーーーーーーーン!!
「ぐぅっ!!痛っ!!痛い!!パパ・・・お腹の坊やを・・・どうするの・・・!!
いいや・・・もうパパは戻らないわ・・・!!
ぎゃぁーーーーーーーー!!」
母トラのトミィは発狂した。
今、目の前に密猟者にトラックに乗せられていた父トラの射殺体・・・
片目の袈裟懸けの傷が、正に父トラのタニーである証拠だった。
「パパぁーーーーー!!」
ーーーー行け・・・トミィ!!
・・・パパ・・・
ーーーーもうここは危険だ!!早くここを離れろ!!
ーーーーそして、俺との子どもを産め!!
ダーーーーーーーーン!!
「!!」
1発の銃弾が、母トラのトミィの尻を掠めた。
ーーーー早く行け!!トミィ!!俺の子どもを産め!!
「解ったわ!!パパ!!この命に変えても、このお腹の坊や産むわ!!」
大粒の涙を流して、最愛の番のタニーとの永遠の別れを告げると、身体中の銃痕を庇いながら必死にその場から逃げた。
・・・・・・
「うぐっ!!」
ドテッ!!
遂に母トラのトミィは崩れ落ちた。
「身体の力が尽きてきた・・・神様・・・あと少し・・・あともう少し私を生かせてよ・・・
待っててね、お腹の我が子・・・もう少し待っててね・・・今、誰にも邪魔されない場所を探すから・・・」
死に際を悟った母トラのトミィは、びっこをひいてヨタヨタと歩いた。
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