本当に後悔した話

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そして、5分ほど過ぎた頃、遠くに知香のシルエットが見えた。まだ遠いが、好きな子の姿だから、それが、絶対知香なんだと分かる。でも、恥ずかしくてまだ気づいていないフリをして下を向く。 そのうち、踏切がカンカンカンと大きな音を出し、遮断機がおりた。 その音で、踏切の方を俺は見てしまい、向こうからやってきた知香と目が合う。 この遮断機が開けば、彼女は俺の所にくるだろう。 俺も体操広場から踏切の方へ向かう。 知香は俺に手を振った。弧を描いた唇が綺麗。 俺も笑った。引きつっていなかっただろうか? ゴウゴウと電車の音が近づいてきて、俺はそっちに目を向ける。 あの電車が通り過ぎたら……と思うと、うう、緊張する。 そして、再び知香をみると。 彼女は遮断機を(くぐ)っていた。 俺は何が起こっているのか分からず、一瞬、知香の行動に呆気にとられて見ていたが、電車のブレーキ音でハッと我に返り、名前を呼ぼうとしたが、声が出ない。 「私、克己が好…」 彼女は俺を見つめて唇を動かしていた。 でも、ブレーキ音で何も聞こえない。 俺に笑顔で近づこうとした瞬間、電車の先頭が一瞬で彼女を連れ去った。 電車の大きなブレーキ音の中に、鈍いドンッと言う音だけは思い出せるが、その後のことは思い出せない。 *** 俺が彼女を殺してしまったんだと思うと、人を好きになるのが怖くなった。 まして、おまじないなんてやろうとは思わない。 俺は後悔しかない。 カンカンカンと遮断機が降りる音が聞いてしまうと、あの時、知香が何を言っていたのか、いつも気になる。
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