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2 獣性
有翼人種のように、精霊は空を飛ぶように体ができていない。夜風の中を飛び続けて、イリューシャは意識も絶え絶えだった。
ローブで包まれていても体は冷え切って、喉もからからに乾いていた。やっとどこかに下されたとき、イリューシャは子どもが求めるように水、水と繰り返した。
喉に水が流し込まれて、夢中になって飲み下す。命の恵みに少しだけ視界が開けて、自分が寝台に寝かせられていることに気付く。
「あ……」
そして自分に覆いかぶさるように、あの青年がイリューシャを見下ろしていた。
青年の瞳孔は闇の中でも光って見えた。そういうときは獣性が制御できなくて危険なのだと、ダミアは普段片時も離さないイリューシャを不本意そうに遠ざけた。
「ああ、この匂い」
青年は押し返そうとしたイリューシャの手をあっさりと外すと、イリューシャの唇に口づける。
「水に濡れた花のような……。からんでくる匂いだ。甘い。もっと……」
青年は熱を帯びた手でイリューシャの着衣を解き始める。
「や!」
「暴れるな。傷つけたくない」
無性に囲まれて育ったイリューシャに、性のことを教えようとしてもできなかった。青年の向けてくる欲望に怯えた。
「ダミアに奪われて、もう十六年も探していた。焦がれて焦がれて、狂いそうだったんだ」
青年は露になったイリューシャの胸に目を細める。片手で収まってしまう小さな胸を絞るようにつかんで、先端を指先で弄ぶ。
ぴんと張った先端を甘噛みすると、イリューシャからくぐもった悲鳴がもれた。
「おいしい。こんな果物は食べたことがない。ずっとかじっていたいが……」
青年はため息をつきながらイリューシャの胸から顔を離すと、ふいにイリューシャの腰布をたくしあげた。
「嫌!」
そこを見られることに、イリューシャは今までとは比べ物にならない恐怖を感じた。
つい先日まで、そこは血を流していた。イリューシャにとって忌まれし場所という気持ちがしていた。
力を振り絞って起き上がろうとする。寝台から逃れようとしたイリューシャを、青年はやすやすと組み敷いた。
「ダミアの精がいいか?」
青年はイリューシャを見下ろして、先ほどまでとは違う怒りをこめて言った。
「俺たち有翼人種は、女精のように気まぐれに相手を変えない。死んでも番いを離さない」
イリューシャの足を折り曲げさせて、青年は何かをその間に押し込む。
「これからは俺の精だけを受けて、俺の子を産め」
イリューシャは引き裂かれるような激痛に、涙をあふれさせた。
「な……! お前、まだ」
青年は虚を突かれたように一瞬、目を見張る。
そして次の瞬間、どこか淀んでいた目に甘やかすような色を映す。
「……俺は運命に出会えたのか」
イリューシャの唇に何度も口づけを落としながら、青年は言う。
「俺のものだ。生涯大切にしよう」
痛みの中に甘いうねりが混じる。イリューシャはそれに戸惑って、青年から顔を背ける。
「ロジオン。俺はロジオンだ。呼んでごらん、イリューシャ」
動きを止めて甘くささやかれて、イリューシャは首を横に振る。
「かわいい抵抗だな」
ロジオンは低く笑って、動きを再開する。
イリューシャの中に何か熱いものが注ぎ込まれ、それとは逆に血が流れ出たとき……限界が来て、意識を失っていた。
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