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7 家族
イリューシャの熱が落ち着いた翌朝、ロジオンはダミアにイリューシャと話をするように勧めた。
「リィ。体が結晶化しているとは本当なのか?」
身支度を整えて食卓に現れたイリューシャに、待ち構えていたダミアが訊ねる。
話してしまったのとイリューシャは困り顔でロジオンを見やる。その仕草でダミアは答えを知って、眉を寄せる。
「座りなさい。とにかく回復の手立てを考えなければ」
ダミアもある程度予期していた事態だった。ここ数日のイリューシャの食の細さを振り返れば、何かの病を疑うのが自然だった。
「ごめんなさい、にいさま」
イリューシャが席についてすぐに告げると、ダミアは一拍考えて問う。
「私はリィにとって、まだ家族ではないのか?」
その声音が傷ついた色を持っていたので、イリューシャは戸惑う。
「精霊は家族を絶対視するという。十六年間ここで一緒に過ごしたが、リィは今も精霊界に焦がれているのか? まだ……家族の元に帰りたいのか?」
いつも水を入れ替えて健やかにしていた食卓の花は、イリューシャが床についていたせいでとっくに枯れていた。
イリューシャはうつむいて、自分の心に訊いてみる。
イリューシャは生まれてまもなく精霊界から連れてこられた。精霊の家族は、顔も覚えていない。
けれどダミアを心から家族と思っているかというと、心の奥が見通せない気がした。
「……にいさまとロジオンのように、どうしたらなれるのでしょう」
「私とロジオン?」
ダミアは意外そうに問い返す。ロジオンも怪訝そうにイリューシャを見やった。
「一度刃を取り出しても、収められる。喧嘩をしても、今みたいに隣に座っていられるのは、どうしてですか?」
イリューシャはダミアから目を逸らして言う。
「にいさまとロジオンみたいになりたい。でも、どうしたらいいのかわからない……」
しょんぼりと肩を落としたイリューシャを見て、ダミアは雷に打たれたように息を呑む。
黙りこくったダミアをやがて見上げたとき、イリューシャは目を疑った。
「にいさま?」
ダミアの両目からつたっていたしずく。それが涙だと気づいて、イリューシャは驚く。
「どうされたのですか。わ、私が情けないことを言ったから?」
ダミアは首を横に振って、ため息をついて言った。
「すまない。知らなかったんだ。女精にとっての家族は私たちの家族と違うと聞いていたが、そんな風に考えているとは思ってもみなかった」
イリューシャが不思議そうな顔をすると、ロジオンが言った。
「有翼人種の女性体が生まれなくなった理由を知っているか?」
「それは……女性体が暴力を受けたからだと」
「暴力といえば、確かに暴力だ」
ロジオンは苦々しい口調で告げる。
「俺たちも家族は絶対視する。けれど意味が違う。たとえば番いに似た子がたくさん欲しいために、番いが衰弱しても毎年のように子を産ませたりする」
「え……」
ダミアもそれに続ける。
「番いがいない者は、姉妹に執着する。他の有翼人種の目に触れないように隠すのが普通だ。姉妹が逃げないように拘束具をつけることも多い」
言葉をなくしているイリューシャを見据えて、ダミアは告げる。
「怖いだろう。それが我々の獣性というものなんだ。……だから今更リィを解放してやることはできない」
ダミアはふいにいつものような優しい目でイリューシャを見た。
「でも、そうか。リィは、私とロジオンのようになりたいか……」
イリューシャがうなずくと、ダミアは黙って何事か考えているようだった。
ロジオンはその兄を見やって、忠告するように言う。
「お前が今考えているのは、いにしえからたくさんの同属が落ちた方法だぞ」
「だがリィの不安は消せる。体も治るだろう」
「ダミア!」
ロジオンの怒声にびくりとしたのはイリューシャで、ダミアは身じろぎもせず弟を見返していた。
ダミアはイリューシャに目を移して、静かに諭す。
「リィ。獣性を恐れる気持ちはわかる。でもリィが生きていくには、獣性が必要なんだ。誰かから、何かを奪う」
「奪う、の?」
声が震えたイリューシャに、ダミアはうなずいた。
「そう。にいさまの命を半分、奪いなさい」
時が止まったようにイリューシャは凍り付く。
ロジオンも押し黙った前で、ダミアはイリューシャにその方法を話し始めた。
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