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 もう少し私のこと、大事にしてくれてもよかったんじゃない?先に声をかけてきたのはそっちでしょ。  結婚して子供が生まれてからも育児は協力的じゃなかったし、ギャンブル好きで、生活はギリギリだった。何に拗ねたのか三日も四日も口をきかなくなって、中々大変な結婚生活でしたよ。母親に溺愛され育ったあなたは我が家の王様で、三人の子供たちともう一人子育てしている気分だったもの。  会社の健康診断の検査を受けたらステージ2だなんて……。最初のうちは「苦労かけるけど」なんて言って、結局いつものわがままの言い放題。入院したらしたで、一日に何度も電話が掛かるからその度に病院に向かった。車で行くと駐車代もバカにならないから、自転車で何往復したことやら。寂しいのはわかるけど、こっちはやること山積みなんだけど。  退院してからは急に健康志向になって、タバコ臭いからと車も買い換えたいと言い出したよね。入院保険が入ったら車を買い換えて、それでギャンブルに行くのはどうかなぁ。入院費を払った残りは生活費と学費に当てたいところなのに。  それから暫くして体が思うようにならなくなって、病気の不安に押し潰されそうだったあなた。言わなかったけど、定期検診の日に受付の人に「先生に病気が進行していても本人に言わないようにしてもらうって出来るんですか?」と聞いたんだ。そしたら私だけ先に呼ばれた。  担当医は「最初に検査をした時に、本人が病状を伝える項目に自分でチェックした。嫌なら他に行けばいい」と言った。それはまだどんな状態かわからない時で、今は事情が違うのに病気になったことないの?この人と思ったわ。それでも今よりもっとあなたが不安になるので、頭を下げて引き続きの治療をお願いしたの。  他の患者さんも家族も同じように大変なんだよね、私たちだけじゃないって思って頑張った。あなたが少しでも良くなれば、もう少しでも楽になればって。
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