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あなたの希望でリビングにベッドを置き、夕方から眠ると言って電気も消されテレビも見られない。自分は薬なしでは眠れない、食欲もないから「お前らは眠れて、食えていいよな」と言われたのも本当は傷ついたよね、泣きながら長女と廊下で食べたよ。夜中に「眠れない」と数十分置きに起こされて、毎日寝不足だった。
結局再入院した時は歩くことも出来ず車椅子で行くと「そんなんじゃ治療出来ない」と担当医に言われた。病気が進行して転院を勧められたけど、それもケースワーカーさんからだった。言いにくそうに「うちで出来ることはもうないんです」って。転院イコール治療ではないことを看護師さんと私で伝えてもピンと来ない様子のあなた。幾つもの病院に断られ、どうにか隣の市の病院に空きができ入院の面談に行くとその先生は丁寧に話を聞いてくれた。「奥さんも大変だったでしょう」と私を労って、あなたを受け入れてくれることになった。でも自由がきかない病院から家に戻りたいと退院して、結局すぐに病院に救急車で運ばれた。
たまたま学生時代の友人が働いていて、とてもよくしてくれてありがたかった。一緒にお礼を言って貰いたかったな。
朝子供たちを送り出して病院に行くと、夜勤の看護師さんから夜中に何度もナースコールを鳴らし、徘徊もあって危険だからと言われた。途中からは私も病院に泊まったよね。当の病人のあなたが一番辛いの理解してるつもりけど、家と病院の往復で私もぐったり。気がつくと服が緩くなり、体重は十キロ落ちていた。前のあなたなら「痩せてよかったんじゃない?」と言ったかもね。
薬で眠る日が多くなって、もう心も体も自由がきかなくなってきた頃、私にもわかったよ。その細くなった腕が私を抱き締めてくれることはないって。そしてある日、用事をすませて私が病院に戻ってあなたのお母さんときょうだいが帰って暫くしてあなたは息を引き取った。私と二人きりになるのを待ってたのかなぁ?
あなたの方が年上だし、平均寿命を考えたら先に逝くのは仕方ないかもしれないけど、ずいぶん早く未亡人になっちゃったな。
あなたのお母さんは病気で亡くなるし。お父さんやきょうだいも怪我や病気で入院したわ。
お父さんも、私の母も高齢で大変なんだよね。子供たちとも上手くいってないんだ。ズルいなあ、あなたは私に任せて安心して逝っちゃったのかな。私なりに毎日一生懸命やってるつもりなんだけど。まあ、あなたが生きていてもやっぱり私が全部やってるんだとは思うけどね。
でも買い物に行って仲の良い夫婦を見たり、友人が旦那さんの話をしているのは羨ましいと思っちゃう。いつか二人で年をとって手をつないで買い物に行って、子供たちに結婚記念日のお祝いしてもらおう、なんて妄想してたのになあ。
なあーんにも手伝わなくていいし、たまには拗ねてもいいよ。負けっぱなしのギャンブルも時々は許す。
だからあなたには、もう少しだけ一緒に生きててほしかったなあ……。
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