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時を戻す少年 2
俺は会社の下駄箱で靴を履き替えると、古びた社員用通用口のドアを開け、車へ向かった。今日は会社で嫌な事など無かった筈だが、何か変なストレスでモヤッとする。今朝、妻と喧嘩をした覚えも無いが、妻へ謝罪しなければいけない事があったような気がして気持ち悪い。
「ただいま」
俺は、少しイライラした状態で2LDKの賃貸アパートに着いた。住む前は良い場所だと思っていたのに、暫くして隣にマンションが建ち、日当たりが悪くなった。引っ越ししたい気持ちも山々だが金に余裕も無い。
「おかえり」
妻はスマホを触りながら、こっちも見ずに言い、台所へ向かった。今日は彼女の機嫌が良くないと何となく分かったが、気にせず食卓でテレビをつけて食事を待つ。出産を間近に控えているせいか、イライラしている日が多くなってきたように感じる。
10分程すると、食事が運ばれてきた。茶色1色の焼きうどん。
「これだけ?」
「……そうよ、安月給なんだから我慢してよね」
俺は徐に立ち上がり、彼女の後頭部へ思いっきりパンチを当て……る寸前に止めた。俺は昔から空手をしている。本気で後頭部を殴れば死んでしまうかも知れない。
俺の行動に気付いた妻は、気にする様子も無く台所へ向かう。
「我慢して食うよ!」
売り言葉に買い言葉というヤツだ。
俺は安月給と言われるのが1番嫌いで、男としてのプライドを傷付ける最たるものではないかと思う。だが、給料面の事を言われると理性が無くなってしまうところは反省しないといけない。そもそも、彼女は臨月なんだから、その辺は我慢してあげないと……。
腹が減っているのを思い出し、焼きうどんを食べる。空腹のせいかソコソコ旨い。多分、機嫌が悪いから買い物にも行かず、冷蔵庫の余り物で作ったのだろう。ただ、せめて豚肉ぐらい入れて欲しい。キャビンアテンダントも聞いてくるじゃないか、ビーフオアフィッシュと……。肉も魚も無い晩御飯は正直キツい。まあ、我慢しよう。確か、冷蔵庫に昨日買ったエクレアがある筈だ。
その時! 背中に激痛が走った。
「あんたが悪いのよ」
後ろから捨て台詞を吐かれ、俺は妻に心臓を刺されたと理解した。
刺される程の事を言ったか? と考えると同時に意識を失った……。
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