12人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
時を戻す少年 3
俺は会社の下駄箱で靴を履き替えると、古びた社員用通用口のドアを開け、車へ向かった。今日は会社で嫌な事など無かった筈だが、何か変なストレスでモヤッとする。今朝、妻と喧嘩をした覚えも無いが、何故か妻への怒りが込み上げてくる。最近は仲良く出来ていた筈だが……。
「ただいま」
俺は、かなりイライラした状態でアパートに着いた。
「おかえり」
妻はスマホを触るのを止め、俺に笑顔で言うと、台所へ向かった。今日は彼女の体調が良くないと何となく分かったが、気にせず食卓でテレビをつけて食事を待つ。
10分程すると、食事が運ばれてきた。茶色1色の焼きうどん。
「は?! これだけ? 仕事で疲れて帰って来てるんだぞ!」
「……何よ、安月給なんだから、ちょっとぐらい我慢してよね」
俺は勢いよく立ち上がり、妻の後頭部へ思いっきり右こぶしを振り切った。
ガツン! ドサッ!
妻は力無く前のめりに倒れた。倒れた妻を横目に、俺は台所へ向かう。スープとかパンとか、何か他に食べ物が無いかを探しに行った時、目の前の光景で興奮した頭を冷やされた。
ハマチの刺身が皿に盛り付けられている……。俺は妻の元へ駆け寄った。
「おい! 大丈夫か?! 冗談だと言ってくれよ!」
妻は焼きうどんの他に、俺の大好物のハマチの刺身を用意してくれていたんだ。体調が良くなかったから手の掛からないモノを買ってきたのだろう。俺が無駄な一言を言ったが為に、妻もイラッとして言い返しただけだったんだ。何てバカな事をしてしまったんだ……。
『やり直したい?』
救急車だと思ったのと同時に後ろから子供の声が聞こえたので、驚いて振り向くが誰もいない。どうして俺がやり直したいと分かったんだろうか?
『だって、6回目だもん』
「僕、時間を戻せるの?」
『もちろん! その為に来たんだよ』
「妻を殺してしまったんだ……」
『もちろん知ってるよ』
「ついカッとなって……」
『うん、じゃあ時間を30分戻すね』
「お願いします」
『この30分間の記憶は、ほぼ無くなるからね。じゃあ……』
俺は意識を失った……。
最初のコメントを投稿しよう!