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「で、では私の事も一重とお呼び下さい…」
些か慌てながら一重。
何故なら領主夫妻は、彼女が想像していた貴族像から剰りにもかけ離れているのだ。
些か偉そうではあるもののシゲヒサの態度は決して傲慢無礼ではなく、数日前迄の敵と相対しているとは信じられない程穏やかなのである。
亜美ことアメジストに至っては、両目を糸が如く細め穏やかに微笑んでいるではないか。
しかも、夫妻は上座ではなく下座に座っている。
やがてそこに現れる、紅茶と茶請けの菓子を乗せたワゴンを静々と押したマリア=ドブスン。
かつて何度も交戦し何度も悪態をついてきた者と同一人物とは信じられない程、マリアの態度は淑やかなものであった。
「そげん顔をせじくれ(しないでくれ)。
マリアはもう二度と、人族を見下したりはせん。
昨日ん敵は今日ん友。
許してくれと迄はゆわんが、そげん徳川んイヌを見っような目でマリアを見っとだけは勘弁してくるっとあいがて(ありがたい) 」
苦笑しながらシゲヒサ。
やがてマリアが深々と一礼した事で、一重は自分が無意識の内に戦場にいるような目付きをしていた事に気付くのであった。
その様子を暖かな目で見守りつつ、今度は亜美が口を開く。
「 単刀直入に聞っね(聞きますね)。
貴女は一式大尉とどげん関係じゃっとな?
(どのような関係なのですか?) 」
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