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「…なっほど。
そいならかつてん敵地に単身乗り込んで来っとも無理もなかね。
やれやれ、マルーンは些か出遅れたようじゃな」
「わかりました。
娘にはあてから話しちょくね」
「そうじゃ。
大尉を叩きのめしたんな確かにこんおいだ。
逃げも隠れもせん。
言おごたっ事があっとなら、遠慮せじ気ん済んまでゆてくれ」
「貴女ん身ん安全は、女房んあてが保証すじゃ(私が保証しますよ)
」
何度も頷きながら領主夫妻。
(やっぱり…)
心の中で一重。
内心ホッと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
尚、陸攻が漸く目を覚ました事をイラブーが知らせて来たのは、其からすぐの事である。
しかし如何なる理由からか、イラブーの様子は余り嬉しそうではなかった。
「お父ん、お母ん…偉いことになってもうた…
ピンピンしとぅのはええんやけど、名前と生まれ以外覚えてへんねよ陸のあほ…」
「!」
一重の心の中で何かが弾け飛ぶ。
やがて彼女は陸攻の記憶が戻るまでニライカナイで静養する事を提案し領主親娘の承知を得た上で、まだ些かの疲労が見える陸攻をクラカヂールへと誘う。
畝傍艦の甲板で一組の夫婦が式を挙げたのは、その3日後の事であった。
そして、物語内の時間は、
一重が親友シャロンを追い返した場面…
…陸攻とシゲヒサの決闘から2週間後のニライカナイに飛ぶ。
「ごめんなさいユリネさん、ユリコちゃん。
まさか陸ちゃん、いいえ、一式大尉が名前と生まれ以外思い出せなくなっているなんて、イラブーさんに聞くまで本当に知らなかったの…」
極々小声にて一重。
その姿は、いけないとは知りつつ心の中に湧き上がる何かを、懸命に懸命に押さえ付けているかのように見えた。
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