波及。

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 砂漠船団とテイルウィップ領との講話成立を境に、ルー大陸のあちらこちらで様々な動きが生じつつあった。 かつてはチコロスの荒れ地と呼ばれ流刑の地であったとは思えない程に、イアンヴェの人口が増えつつあるのもその動きの1つである。 移住希望者の比率は人族が7に獣人が3。 どちらもかつては、テ領にて苛烈な差別を受けた過去を有していた。 モグラを祖とするモーロイドのアイン=スコードロンの一家は、運送処羽黒屋の御近所さん第1号である。 義理人情に厚く善い意味で頑固一徹なアインさんの勤め先はナーゼル商会イアンヴェ支店。 因みにアインさんの奥方であるヤエさんは、砂漠急行ハツール号の始発駅であるイアンヴェ駅の売店に勤めていた。 尚、イアンヴェ駅の売店は売店と言うより屋台と表した方が当たっているのだが、その売上には目を見張るものがある。 そして何よりスコードロン夫妻は、金喰い蟲と直接意思疏通が可能な手荒く貴重な人材なのだ。 「こんにちはアインさん。 相変わらず御精が出ますね」 「あっ! どうも番頭さん!」 「? 番頭さん?」 「へい。 ムジーフさんはアリームの大将の腹心でござんしょう? だから番頭さんなんでござんす」 「あはは…」 流暢なイズル言葉でそんな会話を交わすのは、勿論ムジーフとアイン。 正確に述べるとムジーフは番頭ではないのだが、アインにとって上役なのは間違いない。 アリームが敢えてムジーフをナーゼル商会イアンヴェ支店長のポストに就けていない理由は1つ。 郷に入れば郷に従え。 故郷トバンを旅立つ時に従姉シーナから受けたアドバイスを、忠実に守っているからであった。
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