波及。

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 其と粗(ほぼ)同じ頃。 偶然とは何とも不思議なもので、テ領主夫妻もまた自宅にて苦笑交じりの言葉を交わしている。 但し、此方は溜め息が加わりそうな様子は見られないのだが。 「名は体を表すとは、良く言ったものだな亜美」 「ええ。 是非とも勇者様に、日向(ひゅうが)の御国言葉を教えてさしあげたいわ」 「ふっ… バカの帝国等怖れるに足らん」 「特に貴方はそうでしょうね。 うふふ…」 何故勇者に日向… 宮崎の御国言葉を教えてさしあげたいのかはさておき、テ領主夫妻は実に普段通りである。 いつも会話に用いている薩摩弁を口にしていない事を除いて。 「おいおい、まるで俺には怖いものがないみたいじゃないか」 「違いますの?」 愛妻から即座にこう返されては、流石のシゲヒサも苦笑するしかない。 やがて其が一段落すると、シゲヒサはゆっくりと口を開くのであった。 「マルーンはまだ膨れてるのか?」 「あの子にしてみれば踏んだり蹴ったりですもの。 今はそっとしておくべきだわ」 「そうは言ってもなぁ…」 そんなやり取りを重ねつつも、亜美は心の中で改めて確信する。 最愛の人にも、ちゃんと怖いものがあるのだ、と。
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