恋愛小説家・月丘雨音

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恋愛小説家・月丘雨音

ショッピングモール、ソレイユの書店に古本コーナーが出来た。 そこに、月丘雨音著の『SとNの日記帳』という恋愛小説がある。 値段は100円。  棚の一番上にあるその単行本を、この春、小学4年生になったばかりの詩織は、ちょっとジャンプをして取った。 「詩織ぃー、ここにいたの? 探したわ」 まだ四月だというのに、休日の夕方で人が多いのと節電のため、店内は暑い。額に汗を掻き、慌てた様子で晴美が駆けて来た。 「うわっ! お母さん、また超汗掻いてる! やっぱコ―ネンキ?」 「今何て? まだ三十代よ! ギリギリだけど……そ、そんな事より、気が付いたら横にいないんだもの。本屋さんに入るなら入るって言ってよ」 「だって嫌がるし」 「当たり前でしょ? 詩織はずーっとファッション雑誌ばっかり手当たり次第読み始めるんだもの」 「手当たり次第って訳じゃないもん」  と詩織はちょっと拗ねた様な顔をした。 晴美は最近、詩織が勉強もそこそこにして、髪型や洋服にばかり気を使う様になったことが気になっていた。今日も出かける時に、洋服を選ぶのに一時間も掛かり、口喧嘩になってしまった。それに、ちょっと前まで晴美の二の腕くらいの背丈が、今ではそろそろ肩に届きそうだ。四年生の平均身長は140センチ程らしい。詩織はそれを超えていた。多分、あっという間に抜かされるんだろう……そう思うと「コ―ネンキ」などと口にする所が何とも言えず生意気で憎らしく思えてしまう瞬間がある。なので、ついつい詩織が嫌がるような事を言ってしまう。 「あのさぁ詩織、3年生の成績、とくに算数ひどかったよね? 4年生からは頑張んないと! そうだ、ドリル買ってあげるわよ」 「はっ? いらない」
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